■消費者の評価が重要
賃貸住宅市場は今秋、大きな変革を迎える。日本賃貸住宅管理協会が全国の会員を通じて、入居募集広告や申し込み書類などに、独自の「めやす賃料制度」を導入することを正式表明したためだ。「めやす賃料」は、賃貸住宅に4年間入居したことを想定し、その期間に借主が支払う賃料、共益費・管理費、敷引金、礼金、更新料の総額を、48カ月(=4年間)で割って月平均に換算したもので、ユーザーが物件を選ぶ時の「めやす」となる賃料を意味する。同協会では、通常の月額賃料の表示と併記する形で表示することになるとしている。
既に不動産広告を扱うメディア会社やネット会社とも、秋の導入に向けた事前すり合わせを済ませ、賛同する他の不動産関連団体へも導入を働きかけていく考えだ。
日管協にはサブリース大手の会員も多い。賃貸管理で高いシェアを持つ会員が一気に導入しはじめることになるため、「めやす賃料」が賃貸市場に一気に広まる可能性は高い。
賃貸住宅の賃料体系や契約方法についは、地域によって慣習が異なるという問題が以前から指摘されていた。遠距離間の転居が当たり前のようになった今日、消費者の認識のズレを生み、時にはトラブルに発展することがあると言われる。また賃貸業者の競争も年々激化しており、礼金ゼロ、ゼロゼロ物件、フリーレントといった入居を促進する特殊条件の物件が増えてきたことが、消費者の混乱を招いている側面も否定できない。
こうした業界特有の問題を解決することを目的に導入されるのが「めやす賃料」だ。協会によると、一般消費者に対して全国一律の形で正確な賃貸条件を伝えることがトラブルの未然防止につながる、借主が支払うべき金額が容易に理解できる、商習慣などが異なる賃貸市場でも公正・公平な判断をもって物件を選択できることを、消費者、業界双方のメリットに挙げている。
一方、新たな取り組みだけに「めやす賃料」に対し、業界内では疑問の声も聞かれる。「異なるのが当たり前の入居期間を一律4年に設定している」点や、更新料や礼金といった、消費者にはあいまいにとられかねない名目の費用を「なくすほうがむしろわかりやすい」といった意見だ。確かに、正確な情報を伝えるという面では、もっと効率的で適切な方法があるのかもしれない。しかし、これまで統一性に欠けていた賃貸借条件について、業界が問題解決に向けて「一定のルールを市場に浸透させる」という明確な意図をもって、組織として取り組み始めることに、「めやす賃料」の大きな意味がある。
取り組みの良し悪しは消費者が決めることであり、消費者の声に絶えず耳を傾ける姿勢があれば、必ずよりよい制度へと改善されていくはずだ。日管協もある程度の逆風を覚悟で、あえて実行に移す決断を下した。賛否を問うよりも、まずは消費者の評価に耳を傾けることが重要だ。