住宅取得資金の贈与
資産税が狙われている。相続税や贈与税について、11年度から課税強化の方向が検討されているからだ。代々受け継いできた資産、とりわけ不動産を子孫に継承することに黄色サインがともっている。主たる理由は「格差是正」。それが錦の御旗である。誤解を恐れずに、この方向は、果たして、いかがなものかと疑問を呈したい。
ハーバードの議論
NHKで放送されている人気番組「ハーバード白熱教室」というのがある。同大学の授業「ジャスティス(正義)」を公開したもので、マイケル・サンデル教授が、ある時、ビル・ゲイツの時間給を披露していた。1日14時間働いたとして計算したものだが、なんと1万5000円だそうである。断わっておくが、1時間ではない。1秒当たりである。こんな富裕層には大幅に課税して、公平を期すのがいいのかという議論だ。ちなみに、この授業は市場原理主義の正義を考えるものであった。
我が国のケースに話を戻せば、現行の相続税は5000万円プラス1000万円×法定相続人数が非課税となる。法定相続人が2人なら相続人に7000万円以上の資産がなければ相続税はかからない。国税庁によると、05年の相続税課税人数は約4万5000人で、死亡者数約108万人のうちの4・2%でしかない。
それが6・8%(91年)まで上昇した時もあったが、その後はなだらかに下降して、ここ数年はほぼ変わらない課税割合になっている。
住宅取得にかかわる贈与を見ると、現行は非課税限度額が1500万円で、これに相続時精算課税制度の2500万円を加えて4000万円まで非課税になっている。ただ11年には500万円引き下げられて、3500万円になることが決まっている。
米国型の遺産課税
国は、相続税は格差是正の観点から非常に重要な税であり、現在、再分配機能が果たせているとは言えない、としている。そのうえで、相続税の課税ベース、税率構造を見直すとしており、具体的には富の一部を社会に還元する考え方に立つ「遺産課税方式」への転換を検討している。
遺産課税方式は、現在のような相続人に課税するのではなく、被相続人に対して一生を通じて得た所得を死亡時点で清算するものだ。アメリカは同方式を採用している。ビル・ゲイツが、どういう対策を取っているかは知る由もない。
民主党議員の中には、相続時における相続人間のでのトラブルを少なくできると主張する者もいるが、トラブルは相続税の負担が原因ではなく、遺産の取得額をめぐるものが大半で、課税方式を変えたからといって、紛争がなくなるわけではないのは明白である。
住宅産業での経済効果の大きさは、常に国が主張してきた。景気浮揚の観点でいえば、格差是正をお題目にした相続税・贈与税の強化ではなく、住宅取得資金にかかわるものについては、安心して子孫に渡せる道筋をつける方が、資産の活用にもなる。