社説「住宅新報の提言」

維持向上を担うのは営業マン

重要になる建物価値 
 国土交通省はこのところ、相次いで建物価値の維持、向上を狙いとした政策を打ち出している。耐震改修工事費に対する補助制度、エコポイント、リフォーム工事瑕疵(かし)保険制度の創設、更には中古住宅販売とリフォームを合わせて行う事業を補助・支援する「既存住宅流通活性化事業」などがそれである。
 いわゆる土地神話が崩壊し、国民にとって大事な資産である住宅の価値を土地自体に頼ることが困難になってしまった今日、建物の耐久性を伸ばし、価値向上に努める政策の重要性は論を待たない。
 建物価値の維持・向上というとき、リフォームは新築時の価値の回復、リノベーションは新たな価値の創造といった区分けがなされている。ちなみに、国交省も重視しているインスペクション制度は、それら価値の点検もしくは評価制度と位置付けることもできるだろう。
 価値創造はリノベーションに限らない。先日行われた不動産協会理事会後の記者懇談会では、「CO2削減のためのコストアップが不動産業の成長を阻害するのではないか」といった質問が相次いだのに対し、岩沙弘道理事長は「ビルもマンションも、環境対策をとることが新しい時代の価値を生むことになるので、マイナス要因にはならない」と回答した。つまりユーザーが環境に価値を認めるようになっているので、環境配慮が不動産にとっての新たな価値創造になるというわけだ。

忘れていたコミュニティ 
 そして住宅の場合、住み手が新たな価値として認め始めた、というより気づき始めたもう一つの要素が「コミュニティ」である。いい住まいとは何かと問われれば、耐震性があること、面積が広いこと、最新の設備があること、デザインが優れていること、駅から近いことなど様々な要素を挙げることができるが、それらはいずれもワン・オブ・ゼムでしかない。
 住まいが生活の基盤であり、かつ人は社会の一員としてしか生きていけないことを考えたとき、良好なコミュニティが形成されていることは、住まいにとってワンランク上の極めて重要な要素であることは明らかだ。にもかかわらず戦後、国民はそのことを忘れていった。住まいの選択基準はたとえば駅までの距離、住宅面積など物理的で数字に変えられる要素ばかりを重視するようになった。
 その反省か、反動か。お隣同士が協力して一緒に野菜づくりに挑戦する「畑付きアパート」や、共同生活を楽しむ「シェアハウス」などの賃貸住宅が人気を集めている。

地域に精通したプロに
 建物価値を維持・向上させようという国土交通省の政策が実を結ぶためには、最終的には物件の流通を担う個々の営業マンが、リフォームによって復元された価値、環境に配慮した住宅に対する今日的な評価、コミュニティの実態などについて精通していなければならない。
 そして、それらの価値が市場で将来はどのように評価されていくことになるのかという見通しについても、専門家としての誇りを持って説明できる能力を身につけてもらいたい。不幸にもその見通しに若干の誤りが生じたとしても、それがプロとしての誠意から発せられたものであれば顧客は納得する。
 顧客の立場に立った誠意あるアドバイスであることを形のうえからも証明するためには、「両手仲介」よりも、買い手・売り手それぞれに専任の営業マンがつく「エージェント制」の方がベターではないのか。
 民主党は昨年、いったん打ち出した両手禁止の政策を取り下げ、白紙に戻したままだ。建物価値の維持・向上と仲介システムは間接的ながらも関わっている。深い考察を求めたい。