大手ディベロッパーによる医療やヘルスケア領域のイノベーション施設の展開が広がっている。場の提供に止まらず、有力大学と提携し、ベンチャー企業や大手企業などと社会実装を促すサポートも行っている。新型コロナで、医療・ヘルスケア領域でのイノベーションの必要性が強く認識されるようになったことも背景の一つに挙げられる。
三菱地所×医科歯科大
三菱地所は、国立大学法人東京医科歯科大学(東京都文京区)と医療現場・研究現場発イノベーションコミュニティ「TMDU Innovation Park」(TIP)を開設した。場所は、東京医科歯科大湯島・駿河台キャンパス内。9月8日に、三菱地所、東京医科歯科大のほか、文部科学省、経済産業省も参加してオープニングイベントを行った。
東京医科歯科大学の田中雄二郎学長は「新型コロナで10年かかると言われたmRNAワクチンが1年足らずで世界中に広まったのは、スタートアップと基礎研究がうまくコラボレーションした証し。三菱地所と一緒にTIPを運営し、世のため人のために貢献していきたい」と述べた。三菱地所の吉田淳一社長は「大手町・丸の内・有楽町エリアにおける大手企業や法律事務所、監査法人などの集積を生かしながら、メディカル、ヘルスケア領域で新しい拠点づくりをさせていただく。東京大学とも一部連携している。本郷三丁目、お茶の水、大手町は丸ノ内線でつながっており、物理的な近接性を生かして、(TIPから)新しい価値をつくり出す流れをつくっていければ」と期待感を示した。
TIPは、両者が7月に締結した共同研究契約に基づく実証事業の一つ。TIPでは、「企業会員」「スタートアップ会員」「アカデミア会員」「メルマガ会員」の4つの会員種別を設ける。会員は同大学との共同研究や医療研究コンサルティング、各種専門家の紹介等のビジネス・研究サービスを受けることができるほか、共通実験機器やコワーキングスペース・イベントスペースなどが利用できる。毎週木曜日の夕方から「TIPセミナー」を開催し、最新の研究や臨床動向、企業・ベンチャーからのプレゼンなど定期的な情報提供を行う。会員のうち、同大学と共同研究に取り組む企業は、学内のウェットラボ対応区画(バイオセーフティレベル3まで対応可)が使用でき、医療現場のすぐ近くで本格的な実験が可能だ。
三井不動産×LINK-J
三井不動産は、ライフサイエンス領域でのイノベーション施設を19年2月から展開している。「日本橋ライフサイエンスビル」(東京都中央区日本橋本町)内に研究開発機器を備えたシェア型ラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を開設。ここは元々、薬種問屋の街であることから、三井不動産は、この施設において、ライフサイエンス領域での新産業創造のエコシステムを構築してきた。
更に三井不動産は、ラボとオフィスを備えた「賃貸ラボ&オフィス」を展開する。今年7月、同社として初の新築賃貸ラボ&オフィス施設「三井リンクラボ新木場1」(東京都江東区)をオープンした。ライフサイエンス分野の本格的な研究に対応した仕様で、同社の都心近接型賃貸ラボ&オフィスとしては2件目。産学官が参加するライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)との連携に基づく取り組みの一環。都心に近くアクセスのよい立地に、研究とビジネスが一体となった拠点を設けることで、オープンなイノベーションの創出を後押しする狙いがある。
11月には、千葉県柏市で「(仮称)三井リンクラボ柏の葉」(延べ床面積約1万1000m2)を竣工し、21年内には、米国・ボストンで「(仮称)イノベーションスクエアPhaseⅡ」(同約2万8400m2)の開発に着手するなど、国内外で展開を加速する。