住まい・暮らし・文化

パラダイムシフトの様相(下) コロナ禍で急激に変化する住宅産業 傍流が主流へと変化

 住宅産業に属する人たちを取り巻く状況に、パラダイムシフトとも言うべき変化が起きている――。この記事はその様相を表すものだが、変化を主導しているキープレーヤーが消費者である。かつてとは、住宅取得に対する考え方が大きく異なっているためだ。そして、その変化は長く続いてきたビジネスモデルのあり方にも影響を与えようとしている。 (住生活ジャーナリスト・田中直輝)

 40代半ばのご主人と30代半ばの奥さんのAさん夫婦は2人暮らし。この春、テレワークをしやすい住まいを、という理由で、埼玉県内で戸建て分譲住宅の購入を決断し、7月に引き渡し予定だ。画像はその夫婦と分譲事業者のやり取りの一部。SNS「ライン」のグループが立ち上げられ、夫婦と営業担当者、現場監督が参加している。なぜ、ラインで連絡のやり取りをしているのか。

 ご主人に聞いたところ、「それが普通だと思うから」と、実にあっけらかんとした回答。夫婦はそれぞれに仕事に追われ、住まいづくりだけに構っていられない。ならば、電話や対面という時間的な拘束がある手段ではなく、好きなタイミングでやり取りができるラインでやり取りをしようとなったわけだ。

 「若い世代だけでなく、40代以上の世代でも同様のやり取りを望まれるお客様が増えている」(Aさん夫婦の営業担当者)という。

 住宅は人生で最も高額な買い物。そのため、検討や打ち合わせは対面や文書などを交わし、慎重に行われるべきとの考えが、かつては消費者・事業者双方にあった。しかし、そうした価値観は、情報通信技術の進展とそれに慣れた消費者、住宅事業者の若手らによって失われつつある。

 それは、より慎重な検討を要する注文住宅でも同様である。特に住宅事業者は、今やそのやり取りを顧客との距離を縮めるためのツールとして積極的に活用するようになっている。

 言うまでもないが、コロナ禍以前からウェブやSNSなどインターネットによる情報発信や連絡のやり取りは、その普及当時から始まっていたものである。しかし、コロナ禍以前はあくまでも傍流と見られていた。

 非接触が求められる世の中になったことで集客に大きな役割を果たすようになり、それらは一気に主役へと変貌を果たした。今回取り上げたラインの活用はその象徴と言えるのではないだろうか。

接触型、整理・統廃合進む

 では、これまで重要視されてきた住宅展示場とモデルハウスなどといった接触型の装置は今後、どうなっていくのだろうか。コロナ禍において、具体的な検討と確認、リアルな接触をする場所として利用されており、いまだ一定の存在意義はあるが、一方でSNSやデジタル技術の普及で必要不可欠なものではなくなりつつある。

 そもそも、それらは消費者にとって必ずしも利用しやすいものではなく、集客効果が低減し、コロナ禍以前にも減少局面にあった。今後も失われることはないだろうが、整理・統廃合がより進むものと考えられる。

 長く住宅産業を支えてきたビジネスモデルが岐路に立っている。これもパラダイムシフトの重要な様相の一つと言えそうだ。(終わり)