政策

社説 新NISAとJリート 個人投資家を増やす好機を逃すな

 少額投資非課税制度(NISA)が今年1月に拡充され、世間で注目を浴びている。新NISAは個別株に投資できる「成長枠」と投資信託を毎月積み立てる「つみたて投資枠」がある。年間の投資上限額が最大360万円まで拡充され、売却益や配当の非課税期間が無期限となったことで、不動産証券化協会は、新NISAにより個人資金がJリート(不動産投資信託)に流れ込むことに期待を寄せる。

 Jリートは2001年9月に2銘柄で創設され、今や上場銘柄は58銘柄に上り、運用資産は昨年末時点で23兆円に迫る。運用理念は投資口価格(株価)の値上がり益狙いではなく、安定した分配金(配当金)を出す仕組みで長期運用を目的とするミドルリスク・ミドルリターン。昨年12月末時点の予想分配金利回りが4.36%であることを見れば、ゼロ金利政策が長期に及び金利のない時代が続いた中で魅力的な利回り商品として存在感を放っていることは明らかだ。

 年金制度を支える将来世代が縮みゆく中で、政府は長期運用で資産形成を促すことを狙いNISA制度を拡充した。暗に老後の生活は年金に頼るな、とサジを投げた感も強いが、そこはさておき、例えば、年間での配当金利回りが4.3%の銘柄を買って10年運用すれば43%の配当益になり、10年間で43%以下に元本が落ち込まなければリターンはプラスで推移する。基本的に長期投資の場合は、総合収益の過半数以上を配当益で賄われないと損をする可能性が高いが、それだけの配当を出せる投資商品は現状を見渡すとJリートしか見当たらない。Jリート創設に尽力した三井不動産元会長の岩沙弘道氏は、「市場創設以来ずっと持ち続けていれば投資口価格と分配金を合わせた利回りは8.5%になっている」と指摘する。

 買い手は機関投資家がメインだが、新NISAを機に個人が増加に向かうことも想定され、Jリートのシーンを大きく変える可能性が出てきた。そこへの対応は万全か。例えば、個人が投資しやすい株価にするために株式分割を東証から促される可能性が浮かび上がる。新NISA対応をしないと当局の意向にそぐわないと判断されかねず株主割当増資など既存株主に対してのライツ・オファリングが増える可能性もある。もっとも、公募増資などで運用物件を買うことはJリートの宿命である。

 新型コロナ前後で企業の姿勢は大きく変わった。「不要な不動産を持つな」と時価会計が黄信号をともし、東証の要請で企業は株価の解散価値を意識するようになり、資本効率を上げるためにうまく活用できていない不動産を手放して他の投資に振り向ける流れに転じている。利回りとの見合い次第ではあるものの、物件取得機会は増えそうだ。 今年は利上げが規定路線とされ向かい風も想定されるが、新NISAを追い風に個人投資家を取り込む千載一遇の好機でもある。