秋の住まい探しシーズン。消費者にとって不動産広告を目にする機会の多い季節だ。今年4月には建築物の省エネ性能表示制度が始まるなど、広告表示の注目度が増している。
広告表示について、業界はこれまで「おとり広告」への対応を進めてきた。架空物件等、実際に取引ができない物件の広告表示によって不動産店舗に誘い込むものだが、ポータルサイトのライフルの調査によれば、直近1年間の賃貸ユーザーの実に7割近くがおとり広告に遭遇している。また、首都圏不動産公正取引協議会によると、23年度に共有された違反物件情報は全国で1275件。このうち実際に取引できない「おとり広告」は、前年比187件増の313件(違反全体の24.5%)で、増加の気配が漂っている。
従来は物件情報や賃料等の表示を意図的に偽るものが特徴的だったが、公取協を中心とした厳格な是正措置が進み、不動産事業者にとっても業界課題という認識が定着した。むしろ、近年は「成約後の掲載取り下げに時間を要したため」など、意図しないケースの増加が顕著だ。背景には、元付会社から情報提供を受け、広告掲載を行う仲介会社が人手で登録や情報更新を行うことがほとんどであり、更新の漏れやリアルタイムでの情報把握が難しいという事情がある。人手不足や人為的ミス、システム導入の遅れなど、各社に委ねる対策の限界がうかがえる。
こうした業界構造を改善する手段となるのが不動産DXだ。仲介会社や管理会社など企業の枠組みを超え、ポータルサイトに掲載される物件情報の鮮度に着眼した取り組みが進む。例えば、ライフルは賃貸管理会社の物件情報とサイト上を毎日照合し、募集終了物件を自動で非掲載にする業界初の仕組み(特許取得)を構築。現在は月間10万件以上の処理を可能とするまで発展させている。国が主導する「不動産ID」でも、おとり広告排除等の効果を検証する実証事業が行われている。土地や建物を一意に特定する「不動産ID」が実用化すれば、類似する物件広告の同一性の判別や重複掲載の排除など、事業者と消費者双方へのメリットが期待される。
業界の目指すべき姿は、これらの取り組みを着実に進め、「意図しないおとり広告」を排除し、消費者に正しい広告表示を届けることだ。そのためには広告表示に関するルール順守を徹底することを大前提としつつも、「人手」という業界課題に対し、様々なプレーヤーが感度を高めることが重要だ。官民が有するノウハウやデータを共有し、物件情報のリアルタイム性や人為的ミスの抑止などにつながる仕組みづくりに貢献できるか。対応できない一部事業者の影響でペナルティ強化というリスクを抱えるよりも、業界全体の生産性を高める先に信用産業としての地位を確立すべきだ。それが不動産事業者の商機拡大につながる道筋となる。