存在感が余す賃貸住宅
日本では賃貸住宅の7割強が民営で、その多くが零細個人地主によるものとなっている。そのため、プロの事業家によって経営がなされているものは少なく、先祖代々の土地を守るための相続対策、土地活用の一環といった資産保全を主眼として行われているものが大半である。言い換えれば「地主の、地主による、地主のための賃貸住宅」である。
一方、日本経済はもはや成熟段階に達し、住宅政策は新規の供給よりも、中古住宅流通の拡大やリフォーム促進などストック活用に目を転じるときである。また人生のライフステージやライフスタイルに応じて住まいを選ぶことができる賃貸住宅市場の活性化も欠かせない。今こそ「ユーザーのための賃貸住宅」が求められている。
「子育て」の原点に
では、これからの日本社会に求められている賃貸とは何か。第一は、子育てのための賃貸住宅である。少子化対策が重視される今日、賃貸であれ分譲であれ、住まいの原点である<子育て支援>をコンセプトにすることは極めて自然な論理である。
第二は、外国人労働者や留学生が入居しやすい賃貸である。特に今後成長が見込まれるアジア市場との一体化を図らなければならない日本が、低廉で良質な住まいを外国人向けに供給していくことは日本のアジア経済戦略としても重要である。
どのような賃貸住宅であれ、その平均的居住期間は持家に比べれば極めて短い。つまり賃貸の基本的な役割は変化する各ライフステージに最もふさわしい居住空間の提供である。平均寿命が80歳を超える今日、結婚、育児、子供の独立、リタイア後などの長い期間を一つの持家に託すことが果たして合理的か。賃貸住宅の社会的役割は大きくならざるを得ないのではないか。
とすれば、賃貸住宅の物理的居住水準の向上はもちろん、管理を通じたサービス面の充実が期待されることは当然だ。退去時の原状回復をめぐる紛争や、更新料訴訟などイメージを悪化させている諸問題は早急に解決しなければならない。
不可欠な定期借家
賃貸住宅の魅力の一つは、気軽な住み替えを可能にするところにあるので、入居時の一時負担金を軽減することと、退去時の紛争をなくすことが急務である。そのうえで、良質な入居者を確保し、家賃滞納などのリスクを軽減することが重要だが、そのためには、定期借家権の導入が有効な手段となる。
日本の賃貸住宅が、分譲マンション購入までの仮住まいではなく、分譲では果たしにくい社会的役割を明確にして、社会資本として存在価値を高めていくことが期待される。