住宅ローン、あり方再考のとき
国土交通省が発表した10(平成22)年1月1日時点の地価公示によると、住宅地・商業地とも全国的に2年連続の下落となる一方で、下落幅が大きかった三大都市圏では、年後半の下落幅が縮小し、下げ止まりの兆しがあることも分かった。
特に、首都圏では新築マンションや建売住宅などの売れ行きがが回復基調を強めている。1年前は、価格調整が早かった中古マンションや、「アウトレット」などと呼ばれた物件が動き始めた程度だったが、現在は、そのすそ野は大きく広がり、回復へのシナリオも見え始めた。
住宅・不動産市況は、米国のサブプライム住宅ローン問題が取りざたされた07年に変調をきたし、翌08年9月のリーマンショックでどん底に落ち込んだ。それから1年半あまり、ようやく立て直しの時期を迎えたとも言える。
ただ不況期であるだけに、需要動向は価格動向次第という側面がまだ強いが、それだけでなく環境対策を意識した長寿命住宅など、従来以上に品質を重視する傾向が強まり、それを政策が後押しする形にあるのが最近の特徴だ。
□テコ入れ策と需要の蓄積
政策的には住宅減税や贈与税非課税枠の拡大などの税制面のテコ入れ策と、長期優良住宅の推進、住宅版エコポイント制度の創設といった環境対策が上手くかみ合ってきたとも取れる。販売現場では「にぎわいが戻ってきた」との声も聞かれるし、これからの商戦に大いに期待したい。
一方で、住宅は好不況の別なく必要な生活の基盤である。持ち家であれ、賃貸であろうと住居費はかかる。安定的な需要が見込める、不況にも比較的強い商品である。今回の首都圏での動きも、住宅需要層を多く抱える大都市だからこそであり、また、市況の変調で需要層の蓄積が大きくなったこともあるだろう。
こうした条件が重なったのが今で、これをどう生かし、確実な回復軌道に乗せることができるかである。
その回復基調に立ちはだかっているのが「不況の影」である。具体的には、雇用不安、所得不安による需要者の逡巡がまず挙げられる。人出はあっても実際の購入行動まで進まない現実がある。さらに、意を決しても今度は金融機関のローン審査のハードルが高い。ローン審査の厳しさの実態は「3割程度の人が審査ではねられる」(中堅流通会社)という声もある。所得、勤務先、勤務年数などの条件が厳しくなっている現実を見せつける。数年前とは掌を返したような対応である。
□マイホームの夢と希望に
金融機関にとって、融資リスクが大きくなっているのは確かだろう。だが、国民の生活基盤である住宅のためのローンである。それを前提に住宅ローンを制度・政策として考えると、金融情勢や金融機関側の事情に振り回されていいのかとの疑問も残る。
また、回復期の景気の足を引っ張りかねないし、何より住宅に暮らしの安心安全を求める需要者の夢や希望を打ち破ることにもなりかねない。
需要者がマイホームとして求める住宅は地域も価格帯も幅広い。地域の賃貸住宅の家賃相当の支払いで購入できるものから、高級ものまである。それぞれに条件は異なるが、住宅ローンは誰のためにあるのか。住宅ローンが付くのは安定的な勤務先に勤める公務員や大企業に務める人たちだけだとしたら、その制度は欠陥である。社会を構成する大多数は厳しい審査の標的になる中小企業サラリーマンだからである。
数年前の住宅金融公庫の独立行政法人への移行の際もあったが、国民生活の基盤ともなる住宅ローン制度のあり方などについて、金融機関の公共性も踏まえ、再度、検討する必要があるだろう。