社説「住宅新報の提言」

政権交代と不動産業

地域再生、成長戦略の柱に
 戦後初の本格的政権交代から2カ月近くが経過した。新政権は古い殻を破り、新しいビジョンを示し始めたが、様々な障害にぶつかり軌道に乗りきれずにいる。その要因の1つに、日本経済の成長戦略が明確に描ききれていないことがある。
 10月28日、国会論戦に臨んだ鳩山由紀夫首相は自民党谷垣総裁の質問に「人間のための経済を重視する」と答え、(1)イノベーションを通じた世界最高の低炭素社会の創造(2)医療や介護、林業や農業あるいは観光などの内需中心産業の育成による新たな雇用創出などを挙げた。
 このほかにも国交省関連では、海外建設プロジェクトの促進、空港・港湾の海外競争力強化などにも力を入れていく方針だ。
 民主党マニフェストの「経済成長対策」関連には、中小企業の法人税引き下げ、月額10万円の手当付き職業訓練制度創設、高速道路無料化による地域経済の活性化、質の高い住宅普及の促進などが掲げられている。
 しかし、こうした政策の並列ではなく、その底流にあるもの、自民党政権では果たせなかったパラダイムの転換を具体的な言葉で国民に分かりやすく訴えることこそ重要ではないか。

「ヨコ」型社会へ
 民主党マニフェストの巻頭にはこう書かれている。
 「縦に結びつく利権社会ではなく、横につながりあう『絆』の社会をつくりたい」
 新政権の成長戦略の根底にあるものは、実はこのヨコ型社会の形成である。  
 国を頂点とした中央集権、何百もの下請、孫請け会社を支配し頂点に立つ大企業。そのような「タテ型」社会を改め、バラマキと批判されようとも、中小企業、母子家庭、年金暮らしの高齢者など弱者が助けあって安心して居場所を見い出すことができる「ヨコ型」社会の構築を目指すと表現したら、自民党との分かりやすい対立軸になるのではないか。
 私たちは、新政権によるこの「ヨコに連携する」社会の構築に希望を託してみたい。それが国民全体を元気にし、経済成長につながるのではという期待である。

中小業者に期待
 国民がヨコにつながり合う「絆」の社会を形成するには「地域再生」が欠かせない。そして、子育てしやすい街づくり、高齢者が安心して楽しく暮らせる街、地域の中小企業を支える若い人材の流入・確保など地域活性化には、地域に密着した不動産業の育成が必要だ。不動産業自体、中小零細企業が多く、着実に疲弊している。中小不動産会社の収益構造を改善するための施策を打ち出すべきときである。
 また、新設住宅着工戸数の激減など不動産市場が大きなターニングポイントを迎えている。従来のように、フローとしての新築住宅供給に景気刺激効果を求めても、もはや限界がある。今後は多様化する国民ニーズに対応した「手づくり産業」としてのリフォーム、個性ある賃貸住宅、中古住宅市場の整備など新しい視点を導入する必要がある。 
 国民が無理のない負担で快適に暮らせる住まいがたくさんある地域こそ、新政権が掲げる「地域主権」を支える力となる。