基本はインターネット
2010年もインターネットの世界は騒々しい。まず昨年あたりから話題になっているのが「ツイート=つぶやく」ネットツール「ツイッター」。いわゆるブログの簡易版だ。文字数が140文字と制限されていたり、写真スペースが限定されていたり、カレンダー機能がなかったりと、やれることは少ないが、逆にそれ が気軽さを生んで、ビジネスツールとしても使われる例も増えている。
中小企業などの場合は、いわゆる社長ブログやスタッフブログ代わりに使われることが多いが、商品について紹介する商品ブログの代わりや、キャンペーンサ イト代わりに使う例も多い。また外回りの営業担当者が日報代わりに使ったり、1つのテーマについてのバーチャル会議など社内の情報共有や業務効率化ツール としても使われている。
不動産業界の場合、多いのが物件紹介。家賃や間取り、平米数や築年数などのほか、簡単な特徴などを並べた後、写真や平面図など詳しい情報が載っている ホームページ(HP)のアドレスを掲載するケース。閲覧者が気になったら、その場でアドレスをクリックすれば、HPの物件案内ページに飛べるのだ。
ツイッターはパソコンのほか、携帯電話でも投稿閲覧が可能。むしろ特性を考えると携帯電話向けだ。刻々と更新される情報に対して、場所や時間に制限されず返事を書いたり(ツイートする)、リンク先に飛んで情報確認ができるからだ。
そう、ツイッターは自社のHPへの新たな動線なのだ。
「ツイッターを見ている人は、基本的にツイッターしか見ない。なので、このエリアにこういう物件があるのね、と思った人はその詳細が分かるホームページに 飛ぶ。物件情報に直接飛べることがポイント」と解説するのは、中小企業のウエブ企画制作管理を行うホームページリニューアルセンターの代表取締役の飯野貴 行氏。
ツイッター、ブログ、SNS、メルマガなどでHPへの動線を引く
大事なのはツイッターのアカウントを持っていること。別につぶやく必要はない。
「HPとツイッターは連動できるので、ツイッターのアカウントさえ持っていれば、HPの情報を更新するだけで、ツイッターの情報も自動的に更新される」(飯野氏)
ツイッターに限らない。ブログでもミクシィなどのSNSでもHPに連動させる(リンクを貼る)ことで、客を誘導させることができるのだ。
インターネットという大海原には膨大なサイトが浮かんでいるが、「その中から自社のサイトを発見してもらうためには、そういった連動が不可欠」(飯野 氏)なのだ。なぜかというと、「リンクを貼るということは、SEO(Search Engine Optimization=検索サイトで上位に来る仕掛け)で上位に来るという点からも有効」(飯野氏)だからだ。
インターネットにおいてSEOの重要性はいまさら言うまでもないだろう。グーグルやヤフーなど有名検索サイトで上位に来ない限り、企業名が知られることはまず、ない。
地方不動産の特性に詳しい、山形市でWEBの企画制作管理を行う縄野正樹氏は、「まずこのSEOの大切さを知らないといけない」と力説する。
「まだ地方ではその重要性を理解していない不動産会社が見受けられる。そもそもHPは作ったことがゴールではなく、そこがスタート。集客するには、さまざまな情報発信、工夫が要る」(縄野氏)
検索サイトで上位に来るためには、まずHPのタイトルや文章の見出しを工夫する。
とくにタイトルや見出しに、地域名を入れることはマストの条件だ。不動産は地域密着型のビジネスだからである。もしHPのタイトルが社名だけなら、「山田不動産HP」ではなく、「横浜元町で物件数NO.1山田不動産」というように、キャッチや見出しには必ず、営業エリアを付記するようにすべきだろう。
もちろんSEOについては、予算があればヤフーが行っている「オーバーチュア」など検索連動型の広告(リスティング広告)が実効的だ。これは、検索され やすい言葉をオークションで1検索いくら、という価格で買取り、その言葉がクリックされるごとに、検索リストの脇に、広告企業の名前とキャッチコピーが表 示されるもの。オークションなので価格は変動するが、たとえば予算が50万円しかないなら、50万円使いきりの広告プランもある。
縄野氏はこうした検索連動型広告について「とくに需要期の1~3月は効果が期待できる。できれば通年で使いたい」とアドバイスする。
無事、関心を持つ人に自社のHPが発見されたからと言っても安心はできない。検索サイトは比較するためにもある。
写真顔出しと、スタッフブログで信用を得る
選ばれる業者になるためには、自社の差別化を図らなければならない。
飯野氏はその条件として次の4つを挙げる。
- スタッフの写真
- 社長・社員のブログ
- 経営理念・方針
- 成約情報
写真の表示には抵抗があるかもしれないが、今の時代、潜在客から信用を得てもらうには、どんな人が担当するのかが分からないと「逆に自信がないと思われ る。不動産会社のなかには、顔と名前をHPに載せることを入社の条件にしているところもある」(飯野氏)ほど。
社員や社長のブログも同様だ。ブログには人 が出る。文章が下手でも誠意は伝わるものだし、逆に文章が上手すぎてもどこか無理があったり、ウサン臭さがあったりするとその時点で潜在客はリストから外す。それゆえ経営理念が重要となる。掲げた理念に沿って日々活動しているか、ブログの文章やHPの雰囲気からわかってしまうからだ。
成約情報は成約事例や成約後のお客様の声だ。
どうしてもブログが書けないという場合は、自社が得意とする専門分野をまとめた「まとめサイト」を自社のHPと切り離してリンクさせるのも手だ。
例えば充電スタンドを設置する場合の手順や条件、メンテナンスなどをまとめたサイトや、都市農園の管理運営をまとめたサイトなど、必ずしも本業と結びつかなくとも、ためになる情報であれば、そこから自社HPに飛んでくる可能性は高い。
閲覧者がHPをどう使っているのかを検証する
むろん自社のHPが潜在客(閲覧者)から選ばれたからと言って、すぐに成約に結びつくわけではない。来店して成約に至らせる、問い合わせのアクションを起こさせないといけない。
問い合わせをしてもらう、お勧めサービスボタンなどをクリックしてもらうために考えるべきは、HP画面の設計だ。
現在のHPの画面構成は、ボタン配列などだいたいパターン化されている。なので個性化するには、よほどのデザイン力が求められる。だがデザインだけで売 り上げが伸びるわけではない。むしろ、どこをクリックしてもらうかというアクションを考える、つまり問い合わせまでの動線を引くことが重要なのだ。
その方法としては、ネット上にある、客を問い合わせや成約に誘導するための無料の検証支援ツールが有効だ。
例えば閲覧者が画面のどこをどのくらいの頻度でクリックしているのかを表示する「ユーザーヒート」。
これは、検証したいサイトのアドレスを入れると、その画面の上に、ちょうどサーモグラフィのように、クリック頻度高い位置が青から赤い点の大きさでわかるというもの。
また「グーグルブラウザサイズ」はHP画面のどの範囲まで見られているかを段階別に面積率で表現する。
こうしたツールで、どんな情報をどんな配置で画面に配置していくかを、常に検証し更新していくことで、アクションを起こしやすいHPとなっていく。
PICASO(ピカソ)の法則で集客~成約へ
飯野氏はこうしたHPからの集客~成約に至る行為を「PICASO(ピカソ)の法則」、すなわち問題の特定(Problem)→検索 (Internet)→比較(Compare)→問い合わせ(Action)→解決(Solution)→発注(Order)というプロセスでまとめてい る。
この過程でポイントになってくるのは、ネットの前段階、Pの問題の特定だ。
「誰をお客様にして、そのお客様がどんな問題を抱えているか、どんなことに悩んでいるのかがわからない限り、解決に繋がらない」(飯野氏)からだ。飯野氏は、この問題特定に、閲覧者が日本のどの企業からやってくるかを名称で教えてくれる無料サイト「UserLocalなかのひと」を使うという。
「企業からアクセスがあるということは、なんらかの問題解決の糸口を求めているはずなので、問題を想定して営業をかける」(飯野氏)のだ。「HPにやっ てきた企業のHPに飛んで、もし古そうならHPを更新したがっているな、と想定して『現在のHPの運営価格が適切か見積もりましょう』と電話したりする」 という。
もちろんそこで提案した解決策がピント外れでは、契約は覚束ない。「せっかくお客様のところに行っても資料もない、事例もないというのでは、互いの時間が無駄になるだけ」(飯野氏)だ。
問われるのはふだんの企業の姿
つまり、HPはふだんの営業、経営そのものが現れるのだ。厚化粧はすぐ剥がれてしまう。
縄野氏は、「可能なかぎり包み隠さず情報を載せることがポイント」と話す。
「悪い情報もできるだけ載せる。例えば物件があまりに古いので写真を載せないという業者もいるが、結局案内するとがっかりされて成約に至らないどころか、 信用を落として終わる。またよくあるのが、あまり物件がないのに細かい条件設定をしてしまうケース。絞り込むと『該当が物件がありません』と出るので、あ まり物件を持っていないと思われて損をしてしまう。こういう場合は物件を一覧で紹介するほうがいい」
マーケティングの第一人者、東京大学の片平秀貴教授は『マーケティング・アンビション思考』(角川書店)のなかで、企業のサイト(HP)は、その企業のIQを表すと言っている。
「経営者をはじめとする企業全体の姿勢を写す鏡」だから、「担当者とシステムエンジニアに任せて済む問題ではない」と。
インターネットで問われているのは、経営能力そのものだと言っていい。
参考リンク
・UserLocalなかのひと http://nakanohito.jp/・ユーザーヒート http://userheat.com/stage/my_stat/
・グーグルブラウザサイズ http://browsersize.googlelabs.com/