第5回 理系的接客業のススメ お花屋コンサルタント 本多るみさん

本多るみ(ほんだるみ)
学生時代の専攻:農芸化学。東京農業大学農学部農芸化学科(現応用生物化学科)卒業。在学中よりアルバイト契約で生花店に勤務しチーフ・店長へ。途中いったん休養するも11年勤務後出産退職。療養を機にインターネットで情報提供を始め、1000人以上の相談に乗る。現在、生花店コンサルティング・生花店運営通信講座・Webスキル講師を行う他、「ふつうに花のある、おうち」を広める活動(ウェブサイト/ブログ運営・講演・「お花の会」等)を行う。

■花への愛を伝える濃いサイト

今回の取材のきっかけは、担当編集者さんが見つけてきた本多さんのサイトでした。開いてみると、そこにはとっても「濃い」ものが……!そしてかなり親近感を覚える内田。

――Webサイトを拝見して、すごく充実しているな、と。こういう言い方だとナンですが、本多さんは相当の「お花オタク」ですよね。愛が溢れている。ちなみに私の使う「オタク」は褒め言葉ですので。

本多「自分でも、めちゃくちゃオタクだと思います(笑)」

――好きで作っているということがサイト全体から伝わってくるんですよね。Webの黎明期ってこういった趣味に特化しているサイトが多かったと思います。私も、もともとWebから活動を始めたので、何か近いものを感じるんですよね。でも、本田さんのサイトは趣味に特化しているだけでなく、きちんと見る人のことも意識されていている。

本多「ありがとうございます。私も内田さんの経歴を拝見して、似たようなところからスタートしているなあ、と思っていたんです」

内田が科学コミュニケーターとして活動し始めたきっかけも、一つのサイトからでした。私は苦手な家事を少しでも面白くできないか、と考えて、サイト制作をスタートしたのですが、本多さんの場合は??

――このサイト自体はいつ頃どういったきっかけで制作されたんですか?

本多「2005年です。ちょうど過労で花屋を休養していた時期でして。店頭に立っていたときに常々伝えたかったことや思っていたことを発信する良い機会かなと。根を詰めて作っていたので、結果的に療養になったかどうかは微妙ですが(笑)」

――特に接客業ですと、まとまった時間を確保することはなかなか難しいですものね。お仕事をする過程で、常々思っていたことがあった、と。

本多「はい。毎日毎日お客さまから同じような質問をされていて、なんでこういう質問が絶えないんだろう? と疑問だったんです。休養で時間ができてから、本屋やサイトで花に関する情報を見たり調べたりしてみたら、確かに難しい、マニアックすぎる情報しか載っていないんですね。じゃあ自分で発信してみようということでサイト制作に踏み切りました」

一つの花束を作るにも、シチュエーションや予算を考え、なおかつ数~数十分で完成させないといけない。分析力は必須

――具体的にはどのような質問があったのですか?

本多「どれくらいの量の水をどのくらいの頻度であげるのか、お祝いに適した花は…、といったことですね。これを毎日、毎日」

――確かにお花を買う私たちが知りたい。基本の部分ですね。

本多「なぜこういう質問が絶えないかというと、本やサイトを見ると、載っていることがプロ向けなんです。せっかく花が好きで知りたいという気持ちがあっても、敷居が高くて難しすぎる。そこをなんとか埋めることができないかな、と。内田さんのカソウケンも同じコンセプトですよね?」

――まさにそれを目的に試行錯誤しています。普通の感覚の人にいかにわかりやすく伝えるか、ですよね。

現在はお花屋さんではなく、このサイトに記されているような内容を基としてコンサルタントやアドバイザーのお仕事を中心にされているのですね。

本多「はい。今の仕事のきっかけの一つがこのサイトなんです。サイト開設の1年後くらいから、ポツポツと花屋さんから相談メールをいただくようになりまして。そういった花屋さんへのアドバイスを中心に仕事をしています」

一つの花束を作るにも、シチュエーションや予算を考え、なおかつ数~数十分で完成させないといけない。分析力は必須
 

■就職難がきっかけ?! 花屋への道

小さい頃からお花が好きで、スイーツ(笑)な少女時代を過ごしていたのかしら? と思いきや、意外と野性味あふれる子供だったという本多さん。花屋を選択したことも「たまたま」なんだとか。

――小さい頃からお花が好きだったんですか?

本多「花が好きというよりも、自然が大好きでしたね。友だちと遊ぶよりも、1人で野山に出かけていって、生態系ごと持ち帰って移すという遊びに夢中でした」

――「生態系を移す」という言葉が胸をうちぬきますね(笑)。思いっきりツボに入りました。

本多「例えばザリガニだったら、ザリガニとまわりの土とか草とかエサまで水槽に移すんです。そしてそれを観察する」

――では農学部に進学されたのは自然な流れだったんですね。

本多「はい、植物自体が、というよりも、植物・動物ふくめた生き物全般が好きで農学部を選択したんです。当時流行っていたバイオテクノロジーにも興味がありましたし」

――研究室では土壌肥料学を専攻されていたとか。

本多「川の水質検査とか、土壌改良資材の研究をしていました」

――土壌というと、花屋さんの仕事内容に関係がありそうな気がしますが。

本多「関係がなくはないのですが、そのときは全く花のことは考えていませんでした。就職活動でも研究職を目指していましたし。でも就職が見つからなくて」

――あの頃は氷河期でしたものねえ…(本多さんと内田は同世代)

本多「そう、特に女性はなかったですよね。大学院にもあまり魅力を感じていなかったので、進学するのもなあ、と。そうこうしているうちに1月になっちゃって、焦っているときにふと花屋さんが浮かんだんですよ。それまでほとんど接点がなかったのに。なんとなく花屋でアルバイトをしてみようかな、と」

――え? 密かに憧れていたとかいうわけではなく。

本多「はい。そしてこれも不思議なんですが、もともと積極的に行動するタイプではないのに、なぜかいきなり手当たり次第に“働きたいのですが”と花屋さんに直談判したんです」

――その意欲はすごいです。何か突き動かされるものがあったのでしょうか?

本多「今思うとよくやったなと。ようやく20何軒目かで紹介してもらえたんです。花に対する知識も、自動車の運転免許もないけど、根性はありそうだということで拾ってもらいました(笑)」

一つの花束を作るにも、シチュエーションや予算を考え、なおかつ数~数十分で完成させないといけない。分析力は必須

■接客で役立つ、理屈をみる姿勢

ひょんなことから花屋の世界に飛び込んだ本多さん。理系出身はなかなか異色らしく、ものの見方や考え方に違いを感じることもしばしばあったようです。

――働き始めて感じた“理系ならではエピソード”はお持ちですか。

本多「花屋さんって、アレンジメントを習ってきてから就く方が多いんです。そういう方々とは、花に対する見方が根本的に違うなと感じることは多かったです」

――“植物!”っていう感じで見るんでしょうか?

本多「どっちかというと農産物ですね(笑)。鉢物の商品に関しては学生時代に専攻していた肥料の勉強が役立ちました。あと、光合成などの植物の生きる仕組みの知識があったことも大きかったかな。アレンジメントを習って入ってきた人はあまり知りませんから」

――そんな「植物の生きる仕組み」など最初から知っていると、全然違います? 花を長持ちさせることとか。

本多「ええ、理屈がわかっているので。料理のおばあちゃんの知恵みたく、慣習的にコレが良いって伝わっているものもあるじゃないですか。あの理屈がわかる」

――私が以前から疑問だったのは「水の中で茎を切る」ってことなんですけど、あの理屈は。

本多「あれは水圧ですね。あと、切られた瞬間に植物は空気を吸うので、外で切ると空気が入っちゃうんです。それから水につけても水の吸いはよくならないので」

――なるほど、じゃあうちの近所の花屋さんは外で切っているからダメなところかも……

本多「あ、でも植物によっても違いますし。水を吸い上げる力が強いものは気にしなくてもよかったりします。そこまで神経質になる必要はないんですと。植物がひからびた状態でやるときの話なので」

――ちなみに水を吸い上げる力の強弱の違いはどこですか。

本多「導管の大きさです。あ、導管ってわかりますか」

――はい(笑)。何気なく理系用語が出てきましたね。

一つの花束を作るにも、シチュエーションや予算を考え、なおかつ数~数十分で完成させないといけない。分析力は必須

本多「本当ですね(笑)。あとはタンポポとか管が一つしかない植物は、表面積が小さいので弱いですね」

――なるほど。調子に乗ってお伺いしてしまいますが、花を買った時につてくる「花が長持ちする液体」、あの正体はなんでしょうか?

本多「延命剤ですね。あの成分は殺菌剤と糖分です。なので、酸性で糖分を含んでいるソーダ水が適しています。洗剤だと殺菌成分が強すぎるので」

――全然知らない人が聞いたらウソーと思うけど、理屈を知ってたら納得!ですよね。理に敵ってる。

本多「理屈を知っているから、本に載っていないことでも予測を立てて試すことができますし、これはどうしてこうなるの? という理由を見ている点が理系ならではなのかな」

――“なぜ”を見るか見ないか、の違いだと思うのですが。

本多「そうですね。アレンジメントの教室はデザインだけを指導しますし、しかも自分が作りたいものを作りますよね。でも商売となると全然違いますから」

――お客さんが求めているものを作らないといけない。

本多「その“求めているもの”をお客さんは具体的に指定できないんですよね。お任せします、になっちゃう。ですので、分析が必要になってくるんです。どういうシチュエーションでどういう目的に使うか、とか」

――わかります。私も確かに花束を作ってもらうときは「送別会用で」のように、目的だけ告げて後はお任せオーダーになってしまいます。

本多「分析して最終的にそこに合うものを作るわけですよね。しかも予算や時間が限られる中で。そういう仕事なので、私が理系から飛び込んでよかったと思えるのは、それが自然にあたりまえのこととしてできたという点ですね」

――ただ、それがモノ(花)だけに終わらず、人の背景まで見ることができるのは、やはり昔から生態系がお好きだった影響かなと。モノだけに集中するいわゆる“理系クン”タイプとは違いますよね。

一つの花束を作るにも、シチュエーションや予算を考え、なおかつ数~数十分で完成させないといけない。分析力は必須

本多るみ(ほんだるみ)
学生時代の専攻:農芸化学。東京農業大学農学部農芸化学科(現応用生物化学科)卒業。在学中よりアルバイト契約で生花店に勤務しチーフ・店長へ。途中いったん休養するも11年勤務後出産退職。療養を機にインターネットで情報提供を始め、1000人以上の相談に乗る。現在、生花店コンサルティング・生花店運営通信講座・Webスキル講師を行う他、「ふつうに花のある、おうち」を広める活動(ウェブサイト/ブログ運営・講演・「お花の会」等)を行う。

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オーブン・ミトン カフェ
東京都小金井市中町1-11-3
TEL.042-385-7410
営業時間 10:00~16:45(3~10月)、10:00-15:45(11~2月)
月・火・第3日曜定休(その他臨時休業あり)
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旧中村研一画伯邸をそのままに、玄関で靴を脱ぎスリッパに履き替える。テイクアウトの焼き菓子やケーキはもちろん、カフェではデザートセットやランチも楽しめます。

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