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カギ握るローンコンサル【不動産金融特集・住宅ローン編】

変動金利への抵抗感薄れる

 変動金利(短期固定金利を含む)ローンが本格的に導入されて以降、金利は上昇していません。今や「金利は上昇しない!」という声も多く聞こえてきます。低金利に慣れ親しんだ環境が変動金利に対する抵抗感も少なくしたのでしょう。

 住宅金融支援機構の住宅ローン実態調査(住宅ローン利用者調査20年11月調査)によると利用した金利タイプのうち「変動金利」を利用した割合は62・9%、「5年以下の短期固定金利」を利用した割合は4・8%という状況です。

 さらに、住宅ローンを選んだ理由をみると、「金利が低い」を理由にした割合が72・6%、次いで「住宅・販売事業者(営業マン等)の勧め」を理由にした割合が20・6%です。(表1)
これら消費者が選ぶ低い金利の住宅ローンは、ネットを検索すれば誰もが簡単に探せます。

 例えば、住宅ローンアドバイザーの管理をしている一般財団法人住宅金融普及協会が長年、住宅ローンの金利情報を提供しています。事前審査もオンラインにより住宅業者を介さず消費者自らできます。ほとんどの銀行では住宅ローン専用の窓口や電話相談窓口を用意しています。さらに最近ではAIをもちいた住宅ローンの運用や事業者向けのDXサービスも始まってきました。

 住宅ローン環境は随分進化してきました。環境が整備されてきたということは、賢い消費者が増えてきたということでもあるのです。消費者が求めるのは、よりレベルの高い的確な情報提供とサポートです。その要となるのが住宅ローンコンサルティングなのです。

 住宅のコンサルティングが重要なように、今後、住宅ローンは専門的な見地からのコンサルティングが一層必要な時代なのです。


金利だけで選ばない

危うい金利上昇の思考

 変動金利(短期固定金利も含む)の利用者は金利上昇へのリスクと向き合わなければなりません。気になるデータがあります。金利上昇に伴う返済額増加への対応として、変動金利利用者のうち「検討がつかない、わからない」との回答者が19・8%、「借換」とした回答者が11・7%となっています。安易に選ぶ住宅ローンは将来リスクへの対応が心配です。事業者として、住宅ローンの詳細な説明・提案が求められています。

 表(表3)は35年返済6年目11年目に0・5%ずつ金利が上昇した場合を想定しました。この程度の金利上昇であれば借入額が5000万円の場合、年間約22万円の支払い増です。(11年目以降が2%であったら年間約32万円の支払い増)

金利上昇だけがリスクじゃない

 金利上昇以外の家計リスクも無視できません。運よく金利が上昇しなかったとしても、お子様の成長による教育費の増加、不景気の加速によりボーナスの減少、思いがけない出費、生活環境の変化や将来に対するリスクは誰もが気になるところです。事実、住宅ローン利用予定者の希望する金利タイプでは全期間固定金利が概ね3割程度います。(実際の利用者は前述のとおりです。)(表4)

 さらに、住宅ローン減税の利用や住宅取得資金としての贈与など、税制は現在および将来において金利以上にマネープランに影響します。「いくら借入するのか?」「住宅名義の持ち分はどうするのか?」「贈与・相続対策は?」など、税対策も考慮したうえでマネーコンサルティングが求められています。
※表1・2・4 出典:住宅金融支援機構 住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(20年11月調査)】

世帯ごとにマネープラン

 これまで住宅業界は「夫婦+子供」の家族を標準世帯としてきました。しかし、今や「夫婦+子」の世帯数は全世帯数の28・4%まで減少しています。そして、今後は少子高齢化が一層進み、本格的な人口減少時代へ突入します。

 さらに、コロナ禍により、新しいライフスタイルや多様な暮らし方への関心が高まりました。働き方改革、DXにより、郊外居住や二拠点生活などを求める動きも本格化しています。家族の形態もさまざまです。

このような社会環境の変化や人々の価値観の多様化に向き合うことで新たな事業機会に恵まれるはずです。変化に対応するには、さまざまな世帯へのマネープランへの対応力がカギとなります。

 例えば、高年齢者へ最適なのが、リバースモーゲージ型の住宅ローンです。代表的な「リ・バース60」では、60歳以上の方へ向けた住宅ローンが用意されています。概要は、①毎月の支払いは利息のみ。②元金は、申込者が亡くなったとき。(連帯債務で借り入れた時は主債務者及び連帯債務者が共に亡くなったとき)、相続人から一括して返済するか、担保物件の売却により返済するというものです。

高まる住宅事業者の役割

コミュニケーションに基づく住宅ローンコンサルティング

 すでにAIをもちいた住宅ローンの運用が始まっています。しかし、現時点では、住宅ローンに特化したという程度のようです。利用者が安心して住宅ローンを選択し、安心して暮らせるためには、住宅への想いとお金のバランス調整が重要になります。

 事業者に住宅ローンのコンサルティング能力が重要になるのはこの部分です。多様な価値観にもとづく住宅需要へのローン付けは、AIやDXが解決してくれるにはまだ時間を要するでしょう。消費者に適した住宅ローンの選択は、住宅の提案と同様にコミュニケーションに基づくコンサルティングが重要です。

米国では住宅ローンは専門家がサポートする

 アメリカでは住宅業界の分業化が進んでおり、住宅ローンについては専門のモーゲージ・ブローカーが対応します。活動内容は住宅ローン市場の競合を高め、消費者に対し、より有利な住宅ローン商品を提供するものです。連邦及び州政府の規制のもとに活動しており、会員は、自主的に厳しい倫理規定と最善貸付行為規定を遵守しています。 利用者が住宅ローンを安心して選択するには、ひとりひとりのライフスタイルに合わせた選択が重要です。そのためには、ライフプランを通じて家計の助言やサポートをする独立型のファイナンシャルプランナーの視点が重要です。ファイナンシャルプランナーの視点で住宅ローンに向き合うことで、変わりゆく住宅ローンへの知識も深まります。

求められる住宅事業者のローンコンサル能力

 住宅は想いの掛け合わせによりまるで違う容(かたち)に完成します。満足度を高めるためにはマネープランにおいても安心の計画が立案されなければ、想いに通じた住生活はできません。そこで重要になるのが、ライフプランに沿ったマネープランから始めるコンサルティングです。

 消費者にとって、そう何度もない住宅購入は、お金の不安と同時に夢のマイホームへの憧れが交錯しています。住宅事業コンサルティングに加え、住宅ローンコンサルティングまで踏みこむことができれば、消費者とのコミュニケーションは高まり住生活全般への信頼へ発展します。その結果、将来のリフォームを含め長期にわたる関係づくりへ発展していくでしょう。

 「新たな日常」を、ビジネスに生かすためにも、豊かで安心安全な住宅へアップデートを希望する消費者のためにも、最前線で消費者と向き合う、住宅事業者の役割が重要になってきます。選ばれる事業者になるためにも、住宅ローンのコンサルティングができる社内体制を構築していきましょう。