政策

社説 中古住宅の流通活性化 建物の価値はゼロではない

 古くなった部分を、新品に交換すれば、その物の価値は高まる。当然のことである。しかし、住まいで、それを実行しても、ほとんど完璧に無視され、価値が上がったとは評価されない。こういう不思議な現象になっていることに疑問を感じない、あるいは黙認しているのが、他ならぬ住宅・不動産業界、そして取り巻く金融業界ではないだろうか。一般の人は、おかしいではないかと強く感じているのに。

大量消費の名残

 中古住宅の流通促進が以前から叫ばれていながら、なかなか進まないのは、こうした点が改善されないことによる妨げが大きい。もちろん国の政策が、中古住宅の購入より新築住宅を税制面でバックアップするなど優遇してきたことのひずみもある。

 しかし建築後25~30年経過した建物は、市場原理に基づく交換価値という考えも排除され、その価値がゼロというのでは質の高い住宅は維持されない。住み替えによる売却が想定されるときに、リフォームをして耐久性も価値も上がらないとなれば手をつけることはないだろう。このままでは良好なストックの形成には、程遠い。

 減価償却とか課税の仕組みを建物に適用して評価するのは、もはや時代に合わない。ゼロ査定には、モノを大切にしなかった大量消費時代の名残が通底している。時代は変わったのである。価値をつけるためには、ゼロ査定をやめる仕組み作りが必要だ。

 不動産の価値を、土地だけに依存してきてしまったことも指摘できる。ところが投資物件では、建物が生み出す収益性を考慮して、築年数だけでなく家賃収入が大きなファクターになって評価している。ただ同じ住宅でありながら、家賃を生むかそうでないかで価値判断が異なるのは、整合性がない。

広く人材育成を

 中古住宅の流通を活性化させるために、現在、国では不動産業界だけに限らず、リフォーム、住宅設備など幅広い業界から意見を聞いている。ここでは宅建業者の総合コンサルティング機能の向上をどう進めていくか、また消費者ニーズの増大する分野を担う事業者をどう育成するか等々意見が交わされており、6月にも不動産流通市場活性化に向けた提言が行われる。

 不動産にかかわる専門資格者は宅地建物取引主任者のほか、不動産コンサルティング技能者、不動産鑑定士などさまざまあるが、建物の経済価値をまっとうに評価できる人材は多くないのが実態である。だからリフォームして価値が上がっているのにもかかわらず、築年数だけでしか評価できない現実が続いている。この際、特定の専門資格者にこだわらずに、建物の経済価値を正当に評価できる人材育成を広く行うことを急ぐべきだろう。