新築も中古市場も大手の寡占が進み、中小不動産会社の経営が一段と厳しさを増している。「今年こそ、アベノミクスの効果が我々のところにも下りてくると期待している」というあいさつが支部新年会で数多く聞かれた。
本当にそうなるのだろうか。いわゆるトリクルダウン理論は、高度成長時代限定というのが定説になりつつあるのではないか。しかも今以上に少子高齢化が進む今後は、ますます中小の経営環境が悪化する恐れが強い。ということであれば、低成長経済が定着した今、中小不動産会社は自らの力で生き残る道を切り開いていくしかない。
中小には、大手が絶対にマネのできない強みがある。それが〝地域密着〟だ。大手にも地域ごとの支店はあるが、社員は流動的だし支店長も変わる。先行きが不透明な時代だからこそ、足元に根を張る地域密着戦略が意味を持つ。地域で暮らす生活者一人ひとりに目を向ければ、必ず新しいビジネスを見つけることができる。
地域密着で何をやるのか。求められているのは〝地域活性化〟である。低成長化における地域再生や活性化こそ、地場の中小不動産会社の使命である。日本の不動産業はもともと地域の顔役、世話役が始めた地場産業だった。宅建業法が施行されたのは52年だが、免許制に移行したのは東京オリンピックが開かれた64年である。それまでは登録制だったから、参入壁は今以上に低く、中小業者が中心の業界だった。
免許制移行後は大手による住宅分野への本格参入が始まり、安定成長時代が長く続いた。しかし、85年のプラザ合意を機にバブル経済へ突入。バブル崩壊後は、暗く長いトンネルを経て、アベノミクスでようやく抜け出たとも思えたがいまだに低成長を続けている。 結果として、社会の格差が広がり、地域の疲弊が止まらない。経済の低成長化で再分配力が小さくなった時代に、民と地域を支えるのは、民と地域との連携、共助しかないのである。その〝おせっかい〟役になるのが不動産業である。日本の不動産業はもういちど、地場産業に戻らなければならない。
例えば、アパートや貸しビルの空き室増大に悩むオーナー、親が要介護になり自宅をバリアフリーに改装したいが資金がない、相続を前に親が認知症になりそうだがどうすればいいか、所得が少なく住まいが見つからないなど、国民の不安や悩みが渦巻いている。
その象徴が空き家問題だが、空き家対策法施行を機に空き家所有者からの相談も増えているという。なにしろ、今後は空き家に関し行政からの指導・助言、そして勧告にも従わないで放置していると、現地(空き家物件)に氏名・住所が公表されるかも知れない。
今後、確実に増え続ける空き家に関する相談業務は、地元不動産会社が地域で主導権を発揮していくスチャンスでもある。ただし空き家相談には、従来型業務以上に広範な知識が求められる。「すぐに売却しましょう」「リフォームすれば貸せるようになりますよ」といった既存ビジネスにつなげるだけのコンサルでは顧客の信頼を得ることはできないからだ。真の信頼産業に飛躍する覚悟が今、求められている。