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社説 「安心R住宅」普及の鍵は 購入後も安心して住める体制整備を

 今後の中古住宅市場活性化の鍵を握る2つの制度が施行から1年を迎えた。宅建業法上に位置付けられた「インスペクション(建物状況調査)」と、「安心R住宅」である。

 車の両輪ともいえる両制度普及に向けては宅建事業者と事業者団体側との緊密な連携、更には制度の簡素化や事務手続きの合理化等を今後国に要請していく積極性が必要である。と同時に、何よりも住宅取得を検討している国民の両制度に対する正しい理解こそが重要ではないだろうか。

 特に安心R住宅制度の土台をなしているインスペクションについては注意を要するところである。例えば診断する資格者(インスペクター)は専門家とはいえ、あくまでも目視による非破壊調査であるため、その診断結果には限界があること。また、インスペクションを実施して仮に瑕疵や不具合がないと診断されても、それはあくまでもその時点(インスペクション実施時点)でのことであって将来にわたるものではない。

 したがって、その住宅が築年数を経ていればいるほど、購入後まもなく不具合が発生してしまうリスクもあると言えよう。その点は事業者側もしっかりと購入検討者に説明すべきである。

 もちろん、一定の築年数を経た現在、不具合がないということは、これからも大丈夫だろうという推測は成り立つ。ただ、それは住宅に使われている部材や工法、更に築年数自体に関係することだから、素人がそうした推測をすることは難しい。

 結局、インスペクションによる診断結果をどう見るかは、築年数、工法、使われている部材などの要素をかみ合わせ、法律に位置付けられたインスペクションを包含する、より広い見地から総合判断するしかない。言うまでもなく、その総合判断をすべき立場にいるのは宅地建物取引士である。

 さて、このような限界性をもつインスペクションを土台とする安心R住宅制度の本質はどこにあるのだろうか。それは「住宅購入時点での安心」を提供することにとどまるのではなく、購入後のフォローをも視野に入れたものでなければ同制度は本当の意味で意味をなさないということである。

 安心R住宅はインスペクターのほか、リフォーム事業者、管理会社、瑕疵保険会社など様々な関連事業者との連携が欠かせない。そして、その中心的役割を果たすのは宅建事業者である。そうした専門家がチームとなって、住宅購入者が購入後も安心して暮らせる体制を整備していくことこそ最も重要である。

 中古住宅に対する不安を完全に払拭することはできない。しかし、購入者の利益保護の観点に立ち、将来も含めた不安軽減のための努力と工夫をこらすことにこそ中古住宅市場活性化の鍵がある。安心R住宅制度が、そのように国民に信頼される業界構築への一里塚となることを期待する。