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社説 重要性高まるコンプライアンス 業界挙げて取り組む課題

 中古市場活性化に向けた取り組みが進む中、コンプライアンスの重要性を指摘する声が高まっている。不動産流通推進センターが公認不動産コンサルティングマスターと宅建マイスターという既存2資格の倫理強化と更新要件の厳格化にのりだしたのも、そうした認識があるからだ。コンプライアンスは今や単なる法令順守にとどまらず、企業倫理や社会道徳、社内ルール、顧客への忠実性、顧客が期待する以上の業務執行・姿勢など、より幅広い意味に捉えられるようになってきた。そして同センターが、コンプライアンス確立に向けこのほど開いた講演会・パネルディスカッションでは、コンプライアンスの浸透は、不動産業に従事する個人や不動産各社がそれぞれ努力するのは当然だが、それだけではなく業界を挙げて取り組むべき課題であることが指摘された。

 近年、不動産業界に限らず、大企業も含めて各種不祥事が多発している。背景には内部告発の増加やインターネットによる情報拡散などがあるといわれているが、消費者の警戒心が強まっていることも確かだ。昨年春には国民生活センターが若者をターゲットにした投資用マンションの悪質な売り込みが増加している実態を明らかにした。このような国民の将来不安につけ込んだビジネスのやり方、企業のモラル違反には、消費者の怒りが一段と激しくなることに注意しなければならない。たとえ法令違反とならない範囲であっても誠実とはいえない業務を行った場合は、回復困難なダメージを受けるリスクがある。そしていまだに不動産業界に対する国民の信頼は低いと言われている。これは、問題のある行動をした営業担当者が業界から追放されることなく、他の会社に就職できてしまうといった現実も背景にある。

 また、コンプライアンスに関して不動産流通市場に的を絞ると、俎上に載るのが両手志向による囲い込み問題だ。両手志向の是非は議論が分かれるところだが、両手にするための〝物件囲い込み〟は明らかな倫理違反となるため、16年1月にはそれを防止する「ステータス管理」がレインズに導入された。しかし、そのステータス管理がうまく機能しているかどうかのチェック機関や罰則規定は整備されていない。業界を挙げて解決しなければならない課題だろう。

 また、流通市場における今後のコンプライアンス問題としては、インスペクション業者と仲介業者の癒着、改正民法に伴う契約トラブル発生(仲介業者の理解不足)、AIの不正利用などが考えられる。

 国土交通省が昨年策定した「不動産業ビジョン2030」でも業界の将来を見据える上で、ストックの最適活用がうたわれている。ストック活用時代を迎え、流通市場活性化には、業界を挙げてのコンプライアンス確立が喫緊の課題となる。