三井不動産は7月、同社として初の新築賃貸ラボ&オフィス施設「三井リンクラボ新木場1」(東京都江東区)をオープンした。ライフサイエンス分野の本格的な研究に対応した仕様で、同社の都心近接型賃貸ラボ&オフィスとしては2件目。(一社)ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)との連携に基づく取り組みの一環であり、オフィスビルや住宅などに次ぐ新たなアセットクラスとして、今後も同種の拠点を更に増やしていく方針だ。
「三井リンクラボ新木場1」は、通常のオフィス設備に加え、ライフサイエンス関連の研究も可能な環境を整えた賃貸ラボ&オフィス施設。WHOの指針に基づき、一定レベルの細菌・ウイルスなども取り扱える「BSL2」に対応し、給排水・給排気や電源設備なども高水準な「ウェットラボ」として整備した。テナントは賃借したフロアスペースを、業務環境に応じてオフィスとラボに区切って自由に利用できる。
賃貸ラボ&オフィスという形としたのは、企業や研究機関等の連携を促進する〝場〟の構築を目指す方針に基づくもの。都心に近くアクセスのよい立地に、研究とビジネスが一体となった拠点を設けることで、オープンなイノベーションの創出を後押しする狙いがある。
先端の潮流に対応
同社は以前から、東京・日本橋を中心にシェア型のラボを備えた賃貸オフィス「ライフサイエンスビル」を展開。大学や公的機関、団体のほか、医療・医薬関連のスタートアップ企業を主な対象として、イノベーションの〝場〟を提供してきた。しかし近年は、より本格的な研究設備を備えたオフィス施設への需要が高まっているとして、同社は賃貸ラボ&オフィス事業の本格化にかじを切った。
7月8日に開かれた報道関係者向け説明会で、同社の植田俊専務は新施設開設の背景として、「近年、ライフサイエンス領域のビジネスモデルが変化しており、研究拠点も米国のトレンドとして『郊外・クローズド・所有』から『都心・オープン・賃貸』へとシフトしている」と説明。LINK-Jの会員からもそういった施設を要望する声が増えたため、ニーズに応えると共に、施設の供給によって潜在的な需要を顕在化させる狙いもあるとした。
同施設はJR京葉線・東京メトロ有楽町線・東京臨海高速鉄道りんかい線の新木場駅から徒歩11分の立地。敷地面積は3300.06m2で、建物は6階建て、延べ床面積は1万1169.77m2。貸し付けフロアは2~6階の計7867.25m2。1階には共用会議室やラウンジ、カフェなどを備える。3月に竣工、入居を開始し、7月1日から共用部の稼働も始めた。
第6のアセットとして
同社は既に、次弾以降の「賃貸ラボ&オフィス」プロジェクトにも着手している。11月には、千葉県柏市で「(仮称)三井リンクラボ柏の葉」(延べ床面積約1万1000m2)を竣工予定。柏の葉キャンパス駅の周辺で、国立がん研究センター東病院に隣接する敷地が計画地。新木場の〝都心近接型〟とは異なり、医療施設や大学などの集積地に拠点を置く〝シーズ近接型〟と位置付ける。
また21年内には、海外進出も予定している。ライフサイエンス領域の研究機関等が集積する米国ボストン市において、「(仮称)イノベーションスクエアPhaseⅡ」(同約2万8400m2)を開発する計画だ。更に23年春には、今回と同じ新木場で2棟目の拠点を開設予定。同社は今後、これら国内4棟体制で事業を進めていくと共に、将来的には米国西海岸などへの進出も検討中だという。
7月8日現在、「新木場1」の入居率は6~7割程度。植田専務は「ラボの実際の仕様や機材との兼ね合い等の確認のため、竣工を待ってから検討を始めた企業が多いなど通常のオフィスビルとはリーシングの流れが異なり、まだ我々も手探りの状態だが想定以上の手応えはある。収益性も十分クリアできると考えており、住宅、オフィスビル、商業施設、ホテル・リゾート、物流施設に次ぐ〝第6のアセット〟として、今後も開発ペースを速めていきたい」との方針を示した。