不動産ポータルサイト大手のSUUMO(運営・リクルート)では、19年4月から新築分譲マンションの物件紹介ページにおいてモデルルーム「即時予約」システムを提供している。コロナ禍を経て、現在は約85%の物件で利用されているという同システムは、マンション販売の現場にどのような変化をもたらしたか。また、同システムが今後目指す方向性とは。プロジェクトの立ち上げから企画を主導した門田怜奈氏に詳細を聞いた。
飲食店や美容院など多くの分野では以前から、インターネットを介して予約の申し込みや受け付けを即座に行えるサービスが一般的化している。電話やメール、専用フォーム等による個別対応と比べ、顧客と事業者の双方にとって効率的でメリットの多い仕組みと言えるが、不動産業界では近年まで馴染みがなく、マンション販売の現場でも大半は「予約の受け付けは電話、管理はホワイトボードで」といった状況が令和になるまで続いていた。
そうしたモデルルーム(以下、MR)予約のIT化を進めようと、リクルートは16年の段階で「即時予約」システムのプロジェクトを始動。前身の予約管理システム「Airリザーブ」(18年提供開始)を経て、19年にSUUMOの物件紹介ページにおける追加機能として「即時予約」システムが稼働した。
同システム開発の中心として、企画からプロジェクトマネジメント、営業販売等を手掛けてきた門田氏によると、「当初は導入に慎重な企業が多かった」という。背景には費用面のほか、予約管理のフォーマットを変更する労力を無視できなかったという事情もあったようだ。作業フローを慣れ親しんだスタイルから大幅に変えることは、一時的にでも大きな負担が生じるため、業務のIT化の障壁となるケースは多い。
しかし、最初から一斉に導入が進んだわけでこそないが、結果として現在では「想定以上の広がりを見せている」(門田氏)。理由の一つは、その集客率だ。19年度の時点で、従来の「リクエスト方式」と比べて「即時予約」でのMR予約数は2.3倍に上った。また「業務効率化により得られた時間を、接客品質向上に充てられた」などの反響もあり、徐々に導入が進んでいった。
コロナ禍で発想転換進む
そして稼働から約1年後の20年前半には、新型コロナウイルス感染症が国内でも拡大。マンション販売の現場も対応を余儀なくされた。
そうした環境の変化に伴い、同システムの導入割合は更に上昇したものの、門田氏は「数よりも使い方の変化が大きかった。MR来訪予約の日時だけでなく、説明内容の選択やオンライン説明、ウェビナーなど、接客メニューの進化・多様化が進んだ」と語る。予約や来訪の時間的な自由度が向上し、利用者からも好評の声が多く寄せられた。
マンション販売の現場では、このほかにも「接客動画」の配信など、新たな手法で顧客体験のオンライン化に挑戦する動きが急速に進んでいる様子だ。コロナ禍がもたらした危機感により、不動産業界は、業務のIT化だけでなく〝顧客アプローチの発想転換〟というDXに舵を切っており、同システムはその土台の一つを担っていると言えるかもしれない。
こうした変化を受け、同社では幅広い使い方に対応できるよう機能の改善・充実化を随時実施。加えて、今後はマンション販売に限らず「住まいのほかの領域にも、利便性向上を図るべくサービスを拡大」(門田氏)していく方針で、既にその準備を進めているという。
門田氏は「(単なるプラットフォーム構築だけでなく)密接なサポートとコミュニケーションで現場の〝困りごと〟をくみ取れる体制が当社の強み。今後も事業者とカスタマーの双方と伴走し、DXで両社の間をつないでいきたい」と目標を語った。