コロナ禍の長期化で社会が混沌とし閉塞感も漂う中、住宅・不動産市場が堅調だ。ウッドショックによる建築費高騰も価格への上乗せで乗り越えられそうだ。マスコミは〝ポストコロナ〟で不動産市場がどうなるかと煽り立てるが、「結局あまり変わらないのでは」という意見も出始めている。しかし、「あまり変わらない」のだとすると何がわるのか、その見定めが大事になる。今回のコロナは世界中の人が命の危険を感じた。そこで何も変わらぬはずがない。短期的にはそう見えても・・・。
不動産業界に精通しているだけでなく、マスコミのあり方にも一家言をもつ佐藤一雄氏(元サタスインテグレイト社長)は現下の状況をこう語る。
「不動産マーケットがポストコロナで大きく変わるかと問われれば、一部の業種・業態を除いて〝大勢は変わらず〟という見方が一般的だろう。マスコミはいち早く変化の兆しを報じるのがその本務だろうが、我々(業界人)はその変化が大きなトレンドに成長し、しっかり社会に根付くまでには相当の時間がかかることを知っている」
「例えば、今や定着した感のシェアオフィス(時間貸しオフィス)もスタートからだいぶ経過している。立地と価格と設備・サービス内容次第で、新たな参入は今からでも十分可能だ。そうだとすれば、個々の動きに過敏に反応せず、〝大勢は変わらず〟と大きく構えているのがよい」
変わる意識
では、大勢ではなく何が変わるのか。確かに現在、住宅価格が中古も新築も高止まりしているのは、コロナ禍においても住宅を求める人の数が減らないどころか、増加しているためと思われる。その背景には、住宅は結婚や出産、入学、親との同居などライフイベントで買わざるを得ないという事情がある。また、需要が増加しているとすれば、コロナ禍で家族との絆や一緒に過ごす時間の大切さに気付いた人が多く、それが〝家族の城〟としての住宅需要に拍車を掛けている。持ち家に対する需要の根強さは昔からだが、家族に対する意識の変化も見逃せない。
では、業界側に意識の変化はないのだろうか。コロナが住宅を求める人の意識に変化をもたらしているとすれば、そこに気付かぬはずもないのである。しかし、不動産業界は〝大勢〟が変わらないどころか、もともと旧態依然たる業界の代表のようにいわれてきた。それゆえ「変わる」ことへの戸惑いが業界全体に空気のように漂っていることも否めない。
更にいえば、これまで旧態依然の業界と言われることに甘んじてきた心理の中には、かつて「千三つ屋」と言われ、残念ながら今でもそのイメージを払拭しきれずにいることへの自嘲も潜んでいる。この自嘲こそが岩盤のごとき体質の要となっているのではないか。
古い体質の終焉
しかし、コロナ禍で加速することになったDX(デジタルトランスフォーメーション)という嵐が吹き始めた今、業界の古い体質がいよいよ破られようとしている。デジタル化による業務の効率化で生産性が上がり、社員は長時間労働から解放され、心にゆとりが生まれ始めたからである。
経営者側にも意識の変化がみられる。不動産業界にはこれまで、「社員を働かせてなんぼ」という古い体質があったが、AIが人間の何百倍もの効率で業務をこなす実態を見れば、これまでの発想を変えざるを得なくなる。課題はDXが生み出した富をどう使うかである。企業、社員、顧客の三者で平等に配分することは当然として、企業がその富(利益)を何に再投資するかである。DXとはデジタルとはなにか(X)と問うているようにも見える。
いまや世の中の〝大勢〟はデジタル化という奔流の中にあるが、業界の未来は業界人一人ひとりが流されるのではなく、ポストコロナに何を見いだすかに掛かっている。