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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇21 移動なき住み替え 自宅リースバックの新効用 マンション流通に一役

 自宅のリースバック事業が広がりを見せる中、マンションでの活用も注目されている。マンションは築年数が経つほど大規模修繕など課題を抱えることが多い。また、入居者が高齢になるほど管理費や修繕積立金の増額に応じるのが難しくなるといった〝二つの老い〟問題も指摘されている。そういう意味では、高齢者が途中で区分所有者から賃借人に変わることができるマンションでのリースバック活用は社会的意義も含めると、戸建て住宅の場合とはやや様相を異にする。

スター・マイカの戦略

 自宅のリースバックはユーザーから見ると、買い取ってもらう事業者への信頼度がすべてと言っていい。買い取り価格や賃料査定が適正かどうか、賃貸期間は無期限も含めて自由に選べるのかなど不安は尽きないからだ。そして何よりも気になるのは、事業者による事業の継続性である。

 中古マンションを買い取り、リノベーションマンションとして販売するスター・マイカ(東京・港区、水永政志社長)がマンション専門のリースバック事業に参入したのは17年12月。買い取り価格や賃貸借契約などについては他社のどこよりも顧客のニーズに応じた柔軟な商品設計を売りにしている。

 それが可能なのは、同社が創業以来、入居者のいる賃貸中のマンションを積極的に取得していること、そして売却するまでの賃貸事業を重要な収益部門として本格運用していること、更に売却に際しては単なる値上がり益を狙うのではなく、市場間の〝価格ギャップ〟を追求する独特の戦略を実践してきているからである。

 価格ギャップというのは、買い手が限定される「賃貸中」マンションの価格と、入居者退去後に幅広い買い手を対象に販売する際の価格差のことである。賃貸収益を確保しながら市場間の価格差を狙う投資戦略を持つプレーヤーは数が少ない。当然、そうした戦略を支える独自のスキルこそ同社最大の強みとなっている。と同時にそのスキルやノウハウが、リースバックというビジネスモデルを安定的に継続していく力となる。

淡野住宅局長語る

 国土交通省の淡野博久住宅局長は10月25日、日本不動産ジャーナリスト会議でこう述べた。「現在の新築マンション市場は共働き世帯による収入合算と低金利のおかげで堅調に推移している。しかし年収300万円以下の世帯では持ち家率が下がっている。対策としては中古マンションなど割安なストックを安心して取得できる市場環境を整備する必要がある」

 これより先、9月に行われた専門紙による就任合同インタビューでも「ストック活用」を重点3分野の一つに掲げ、(他は「住宅などの省エネ対策強化」と「建物の木造・木質化」)こう述べていた。

 「住宅を長寿命化し良質なストックが循環すれば、持ち家率の高い高齢者の資産が若い世代に引き継がれ、資産価値の維持と年収の低い若い世代の住宅取得費軽減につなげることができる」

 マンションでのリースバックが普及すれば、収入が限定される高齢者から事業会社へというオーナーチェンジが進み、マンション管理全体の円滑化に貢献する可能性がある。まさに、マンションリースバックは今後、高齢者から若い世代への資産リレーを担うと同時に、マンション管理の円滑化という意味でも社会的意義のある手法として脚光を浴びることになるだろう。

 利用者側にとっても、前文で述べたような理由から、マンションは築年数の浅いうちは資産性が高いので所有している価値があるが、それが築年が経つにつれ減額していくとすれば、どこかでリースバックに切り替えることは〝賢い選択〟ともいえそうだ。

 住まい方の多様化は移住や二地域居住など〝移動〟を伴うものばかりとは限らない。自宅のリースバックは移動なき住まい方の多様化と解釈することもできる。