核家族社会で子育てを終えた高齢者(夫婦)は身体の衰えと共に、万一のときの安心感を求めて老人ホームやサービス付き高齢者住宅へ転居するケースが多い。空き家となった自宅をシェアハウスに転換する事例も増えている。
「長引くコロナ禍や頻発する災害で孤独感を強めている人も多く、共同生活による〝連帯感〟を求める傾向が強まっている」と話すのは日本シェアハウス協会代表理事の山本久雄氏だ。
結局人は、高齢者施設であれシェアハウスであれ、一つ屋根の下で暮らす連帯感を求めて生きている。家族はその典型だが、子供が独立するまでのほんの束の間の連帯でしかないのが核家族だ。
住宅不動産業界は近年、コミュニティ形成に力を入れているが、それも地域の連帯を求める人間の社会的本能と見ることができる。しかし、その地域社会をなす中心が増え続ける単身世帯や核家族ばかりでは、コミュニティが形成されたとしてもその永続性は保証されない。せめて、親元から独立する子世帯が生まれ育った街に愛着を覚え、その地域内に留まるのであれば希望はあるのだが。
時折発表される「住みたい街ランキング」が人気のようだが、住みたい街を探すのではなく、地域住民が連帯して住みやすく、住み続けたいと思う街を創っていこうとする気構えがなければコミュニティは育たない。
〝人生100年時代〟というが、長寿化を本気で祝うつもりなら100年、200年、300年と続く街づくり構想を持たなければ、人間が本当に心安らぐ社会にはならないだろう。
リモートワークの普及で働く場所や時間を自由に選ぶことができるようになった。つまり、独立後も親と同じ街に住むことをも可能にしてくれるのが「働き方改革」だともいえる。若い世代が持続可能な街づくりに関心を持つようになれば日本が活気づく。そのための仕組み作りに業界は力を注ぐべきである。でなければ、これからの若い世代はこの国のどこにも〝故郷〟と呼べる街をもつことができないだろう。それで日本という国を祖国と呼ぶ国民の連帯が生まれるだろうか。
人への関心
〝連帯〟は21世紀の国際社会を支えるキーワードだ。脱炭素化、気候変動、パンデミック、戦争を防止・回避するためには国家間よりも人類としての連帯が欠かせない。つまり地球平和のためには民族や宗教を超え、人間とは何かという問いが求められている。
現代における深刻な課題はまだある。それは人間が人間に対する関心をあまり払わなくなったことだ。背景には機械や通信技術の発達がある。人間の手や言葉を介さない自動化技術が普及し、メールや携帯電話で簡単にコミュニケーションが取れるようになったことがかえって人への繊細な関心を失わせている。
ただ昨今、AI(人工知能)やロボット技術の驚異的発達で人々はようやく「人間とは何か」を真剣に考えざるを得なくなった。蒸気機関が人間の筋肉に取って替わり、コンピュータが人間の計算力や記憶力を受け持つようになり、そして今はAIが人間の頭脳そのものに取って替わろうとしている。人間のすべての機能が機械に置き換えられたとき、人間には何が残るのだろうかというSF的課題が現実化してきたからである。
人間とは何か。これはなにも哲学者だけに向けられた問いではない。いや、むしろ21世紀に生きるすべての人間に向けられた問い掛けである。産業界でいえば人間について深く知ることを本業としているのが実は住宅不動産業界である。なぜなら、住宅はそこに住む人を幸福にするためのものだから当然、人間とか幸福についての深い考察が欠かせない。
人間とは何か、住まいとは何かを探求し続ける住宅不動産業界こそ、日本社会が人間の人間に対する〝無関心病〟を克服し、日本人が豊かな感性を取り戻すパートナーになるべきである。AI社会の入り口に立つ今が、業界がそうした人間産業に脱却する最後のチャンスとなるだろう。