今年度に入り、中堅規模のディベロッパーによる不動産クラウドファンディング(CF)事業の立ち上げが相次いでいる。不動産特定共同事業法(不特法)の改正などにより、取り組みを始める企業が継続的に増えてきたCF事業だが、ここにきて更に普及の度合いを増している印象だ。最近の事例と共に、その方針や狙いを考察する。 (佐藤順真)
4月4日、日商エステム(大阪府大阪市、浅井悦裕社長)グループのイー・トラスト(同、森智寛社長)は、同社グループの物件に特化したCFサービス「Ezファンド」を立ち上げ、会員登録の受け付けを開始。初物件は同市の「エステムコート新大阪Ⅵエキスプレイス」(08年竣工)で、5月9日に募集を開始し、5月13日時点で募集金額を2割程度超える申し込みを集めている。
同じ4月4日、FJネクストホールディングス(東京都新宿区、永井敦社長)はCFサービス「GALA FUNDING」事業を開始。専用サイトを開設し会員登録の受け付けを始めた。同社グループのマンション「ガーラ」シリーズを中心としたサービスで、5月10日に第1号ファンド「GALA FUNDING#1(白金高輪)」の申し込み受け付けを開始したところ、5分で募集金額の総額に達した。
収益不動産開発を柱の一つとする総合不動産業の香陵住販(茨城県水戸市、薄井宗明社長)も、4月21日に「KORYO Funding」第1号ファンドの募集を開始している。
新規募集を開始したCF商品が、軒並み順調に資金を集めている様子も目立つ。
20年にCFサービス「Rimple」を開始したプロパティエージェント(東京都新宿区、中西聖社長)は、5月9日までに36案件を手掛けているが、いずれも高い人気を博している。直近では、4月の第35号案件は募集総額の約4.5倍、3月の第34号案件は同6.5倍を集めるといった具合だ。
同じく20年に不動産CF事業に参入したトーセイ(東京都港区、山口誠一郎社長)は、2月に第3号案件の一般募集を開始し、開始後2分で総額を集めた。
また開発事業者ではないが、不動産CFサービス事業者のLAETOLI(東京都港区、武藤弥社長)は5月5日、募集総金額36億円の「代々木公園事業用地」ファンドを募集開始。不動産CF業界における史上最高金額(同社調べ)の案件ながら、開始から約3時間半で満額の応募を受け付けたという。
不特法が改正を重ね、活用しやすくなっていったことを背景に、不動産CF市場は拡大傾向にある。売買仲介や不動産コンサルティングなどに加え、不動産CF事業「トモタク」を手掛けるイーダブルジー(東京都港区、田中克尚社長)によると、21年の不動産CF市場は前年比2.5倍へと成長。そして各事業者の商品には、「募集枠に対して数倍の申し込みが殺到している」(同社)という状況だ。
主軸を生かし強化する
他方、不動産CF商品に人気と資金が集まっている要因の一つとしては、個人による資産形成への注目度上昇が考えられる。インターネットを介した投資運用の普及に伴って、若い世代でも手軽なネット証券を中心に積立NISAやiDeCoなどへの投資が増加。比較的少額かつネットで完結する不動産CFも、多角的な資産形成に貢献する投資商品として、需要の拡大は自然な流れだろう。
しかしイーダブルジーによると、22年の市場動向においては、募集総額は安定せず順調に拡大しているとは言い難い。この理由について同社は、「収益不動産の仕入れが安定しないから」と説明する。日商エステムグループやFJネクストHDの事例は、その課題への対策の一つと言えそうだ。
更に、近年不動産CF事業を立ち上げたある不動産会社の担当者は、「顧客の中心はあくまでも1棟や区分単位のオーナー。しかし証券化による小口商品でより広い範囲の個人投資家と直接的な接点をつくり、本命商品の購入への導線としていきたい」との思惑を明かす。
不動産投資の裾野が広がっているとしても、優良顧客の獲得競争がなくなるわけではない。用地取得の難化や事業コストの高騰により、デベ各社は各案件の収益力の最大化に心血を注いでいる。
不動産CF事業は、事業多角化や業績の安定化と共に、主力事業の強化にも一役買う手法として、今後も取り組む企業が増えていきそうだ。