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社説 持家着工が続落 〝建てる文化〟の衰退を懸念

 昨年12月で25カ月連続減など持ち家着工戸数の長期下落は、建築費の高騰で若い世代の新規建設はもちろん、高齢者などの自宅建て替え需要も減少してきていることが大きな要因となっている。ある高齢者は自宅の建て替えを30年前に建ててもらったときの大手のハウスメーカーに相談した。すると、延床200m2の家が当時は4000万円で建ったが、今は同じ規模で建てるならその倍かかると言われ断念したという。相当な預金を蓄えている高齢者でも年金暮らしに入っていれば、7000万、8000万円の出費は躊躇せざるを得ないだろう。

 若い世代でパワーカップルと呼ばれる共稼ぎ世帯なら、低利のローンを組めば1億円程度までなら買えるだろうが、資金力があるので都心に近いタワーマンションなどを選ぶ傾向が強い。また、忙しい生活を送る共稼ぎ夫婦は土地探しからスタートし、その後も営業マンなどとの打ち合わせに多くの時間や日数を要する注文住宅は敬遠されがちである。更に、若い世代は将来の売却も考えているため個性的な注文住宅は避けたい気持ちがあるのかもしれない。

 こうした社会環境が今後大きく変化することは考えにくいので、持ち家着工戸数の減少はこれからも続く可能性が高い。その場合、気になるのは「建て前」「適材適所」「縁の下の力持ち」「軒を貸して母屋を取られる」などの言葉やことわざが示すように、日本の生活習慣、精神文化と深くつながっている「家を建てる」という文化が忘れられていくことである。生活の基盤といわれる「衣食住」のうち、衣や食の文化は十分に花開いたが、「住」については高額という特殊事情もあってかその萌芽すらも見られない。

 分譲戸建て住宅と持ち家(注文住宅)との決定的な違いはその建設過程において住み手の思想や暮らしへの熱い想いが吹き込まれているかどうかである。住まい造りは自分の価値観や感性の発露でもあるから、そのすべてを他者に任せてしまえば、ショーウインドーに並べられた商品の中から気に入ったものを選ぶのと同じで、そこには受け身の楽しさしかない。

 「住まい選びはそれで十分」という考え方もあるだろうが、着物や洋服にもオーダーする文化があるし、食べ物もつくられたものを食べるだけではなく、自ら調理する楽しさが今日の食文化の隆盛を生み出したとも思われる。まして、人生の最も長い時間をそこで過ごす住まいならば、その外観や間取りを自らプランし、試行錯誤を重ねつつも理想に近づけていく熱意があって当然ではないだろうか。そのために要する時間は決してもったいないのではなく、一生に一度ぐらいしか経験できない創造性を持った楽しい時間である。ハウスメーカーには金額の問題は別にして、若い世代にもっと注文住宅の魅力を伝える努力をしてもらいたい。