豊橋駅西口を降りると右手方向にバラック風の平屋トタン板の飲み屋が続く。昭和にタイムスリップしたような街並みだ。その中に名店「酒と旬彩 和乃家」がある。低い暖簾をくぐるとカウンターのみ8席、女将さんと手伝いの2人が切り盛りする。女将の作る家庭料理はどれも美味しい。カウンター上に並ぶのは、旬の野菜を使ったおばんざい料理、煮魚や酒蒸しなど仕入れたばかりの魚で作る一品料理、どれも美味しい。温かい人柄が滲み出る女将さんと、常連客らの醸し出すアットホームな雰囲気は、つい長居をしたくなる居心地の良さだ。そして壁のメニューを見ると一品料理が並ぶ。ブロッコリーサラダ、ロールキャベツ、イワシ煮、いかなんこつガーリック、チーズねぎまぶし、えびせんべい、たら白子ポンズ漬、ほうれんそう、米なすしぎ焼、がんも煮、厚揚げ玉子とじ、どて煮、夏野菜ボイルイタメ、豚テキ、鶏砂肝焼、銀杏塩焼、なす煮びたし、鶏唐揚げ、豚キムチイタメ、鰆西京焼、ホッケ、ししゃも、もずく、のり酢、かぶの浅漬。すべて一品350円と良心的すぎる価格だ(2022年8月時点)。豊橋に住む友人によれば、軽めに飲んで食べて勘定が三桁のこともあるという。
「和乃家」はフィギュアスケーター鈴木明子さんのお母さんの店としても知られる。鈴木明子と言えば、遅咲きながらバンクーバー五輪・ソチ五輪で連続入賞、世界選手権銅メダル、全日本選手権優勝などの実績を残す、日本の誇るフィギュアスケーターだ。店の中に目立った写真などは飾られていないが、「明子は…」など、女将と常連客との会話で出ることもあるという。17時開店、人気店で小さなカウンターはすぐに埋まってしまう。豊橋には「和乃家」が2軒あり、この「和乃家 西駅店」の他、少し離れたところに割烹和乃家本店がある。夫婦でそれぞれ経営しているという(西駅店は女将、本店はご主人)。今度機会があれば本店にも行ってみたい。 (似内志朗)
