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不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編(64) ~畑中学 取引実践ポイント~ 遺言書や遺産分割協議書など確認を「相続登記が済んでいない不動産」

 相続登記が済んでいない不動産の売却相談を受けたら、(1)相続登記が済んでから、もしくは(2)相続登記の準備ができてから媒介契約を結んで売却活動に入ろう。理由は相続登記が万が一できないと、活動が無駄になるだけではなく、売買契約後だと売主の違約となりペナルティが生じるからだ。そのリスクは踏まないようにしていこう。

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 では、相続登記の準備とは何をすればよいのか。遺言書があり、その遺言書に対象不動産が相談者に相続することが明記されていることを確認できた場合か、もしくは遺言書はないが相談者に相続することが他の相続人と決まっており、遺産分割協議書が作成できている場合、法定相続する場合は他の相続人とその話が済んでいるのであれば準備は完了と言えるだろう。

 「まだ話し合いの最中です」では不安が残る。「あとは書面を作成して署名捺印すれば済みます」、この程度まで話し合いが進んでいるのなら大丈夫かもしれない。どちらにしろ遺言書や遺産分割協議書を確認ができれば、リスクは小さくなる。

 それらを確認した上で、売却の媒介契約を締結し、その後すみやかに戸籍など他の必要書類を集めてもらい相続登記を進めてもらう。相続登記自体は最低限、引き渡し時までには完了して登記識別情報通知書を用意してもらいたいが、これだとギリギリなので、原則は売買契約時までに済ましてもらおう。そうすることにより、その後の手続きがスムーズに進むし、仲介をしている我々、不動産会社としても気持ちが楽だ。

 相続登記が済んでいないデメリットは売主と登記名義人(非相続人)が異なるため、何かと手続きの際に「相続することが証明できる書類を添付してほしい」と言われることだ。たとえば評価証明書を取得する際や土地の狭あい協議の際にそう言われる。市区町村役場など公的機関の場合は必ず聞かれることと認識しておくのが正解だ。

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 証明できる書類は何かというと、遺言書や遺産分割協議、戸籍謄本など(コピー)になる。相続登記が未了の場合は、遺言書などのコピーを取らせていただいておこう。そうしないと評価証明書が取ることができなかったり、狭あい協議が申請できずに困った事態に陥ってしまうことになる。

 ただ、これらの書類は極めてプライベートの書類だ。どうしてもコピーを頂けないのなら、売主と登記名義人を一致させるため「遅くとも売買契約時までには相続登記を完了しておいてください」そのように強く申し伝えておこう。場合によっては私たちで司法書士の先生を手配して案内していくのも一つの手かもしれない。

【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。

 2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。