政策

社説 住宅・不動産「巳年」を占う 国内外に潜むリスクを点検せよ

 30年以上にわたりインフレと縁のなかったニッポンだが、地政学リスクという外的要因と歴史的な円安を受けて、さまざまな商品・サービスの値段が上っている。

 念願のデフレ完全脱却宣言を政府は待ち望んでいるものの、そのインフレを上回るほど国民の賃金は伸びてはいない。2025年の春季労使交渉(春闘)が3年連続で高水準の賃上げをできるかが注目され、市場関係者からは「24年に引き続き3%を上回るベースアップが実現する」との声が上がり、物価高対策を含む政府の補正予算が効果を発揮して25年の個人消費も緩やかな回復が継続するといった期待の声も聞かれる。

 そうした中で住宅・不動産業界を見れば、地価上昇と資材価格の高騰、労務費アップのトリプル高の渦中にあり、不動産開発の難易度は高まっている。巳年を観測すれば分譲マンションは実需層の販売が苦戦する半面、アッパー層向けは景況感が悪化せず株高が続けば24年と同水準の業績が見込めそうだ。引き続き富裕層と高所得者をいかに取り込むかが業績を左右する一年となる。一定水準以上の高所得者に狙いを定めて、そこに売れるマンションを厳選する。このため必然的に新規供給戸数が絞られ、首都圏の供給戸数は24年と25年は3万戸に遠く及ばない。

 一方で商業用不動産はどうか。市場関係者は、オフィスビル市況がどこまで回復するかに着目するはずだ。25年に新規供給されるオフィスビルのリーシング活動は着実に進捗している。ただ、キャッシュフローの上昇余地を勘案した際にオフィスよりも商業施設やホテルに軍配が上がる一年となる。オフィス賃料は上昇傾向だが、コロナ前との比較で見れば未だ10%以上を下回っているためだ。循環的な景気変動が賃料に反映されやすいホテルや商業施設が投資先として選好されやすくなるものの、基本的に全セクターが回復に向かう建設的な見方で間違いない。

 気がかりは国内外に潜んでいる景気後退リスクだ。昨年10月の衆議院選で大敗し、第2次石破内閣は少数与党となり、不安定な政治が続く。25年与党税制改正大綱をまとめる際に露呈したように、政権運営は難しいカジ取りを迫られ、野党の協力なくして成立が難しい。政策にバイアスがかかる可能性がある。7月に参議院選挙が控えており、仮に野党が内閣不信任案を提出して可決されれば衆参同時選挙というシナリオも残す。

 米国大統領にトランプ氏が返り咲く。日鉄によるUSスチール買収劇に見られるような保守的な対応や一律に関税を引き上げる貿易政策で企業心理に悪影響を与えてしまい、利益を賃上げや設備投資に回さずに内部留保で貯めこむという時間の巻き返しが始まりかねない。好循環な景気回復へ向けた羅針盤を失えば、住宅・不動産市場の悪化に直結するだけに船のカジ取りが難しく大海をさまようことになる。