厚生労働省によると認知症患者数は22年時点で443万人だが、30年には523万人、50年には586万人まで増加する見込みだ。しかし現在、認知症患者を法的に保護するための成年後見制度全体の利用者数は23年末時点で約25万人と少ない(類型別では後見が全体の約7割、保佐と補助は合わせて3割弱、任意後見はわずか1%)。
今後、認知症患者が増え続ける状況を踏まえると、本人に代わって法律行為を行うことができる成年後見制度の普及は待ったなしの状況となってきた。
不動産業界にとっても深刻だ。判断能力に不安のある人との取引は契約自体が無効となってしまう可能性があるからだ。認知症かどうかを見分ける方法や後見制度に関する知識習得が不動産業者に必須の能力となっていくだろう。
成年後見制度が制定されて今年で25年となる。この制度の普及に尽力してきたある居住支援法人の関係者も「自宅など個人にとって大事な資産を扱う不動産業者にとって、被後見人やその家族が安心して不動産取引を行えるようにするためにも後見制度に対する知識は今後不可欠となる」と話す。
ちなみに、全国住宅産業協会の「不動産後見アドバイザー資格」が発足して今年で約10年を迎える(前身制度含む)。これは自身が後見人になるのではなく、後見制度に関する知識を身に着けて、不動産の相談・管理・取引が円滑に進むように、被後見人や後見人になる人のサポートを行うための資格だ。現在累計で約1300人のアドバイザーが育っているが、認知症高齢者の数を考えると焼け石に水の状況だ。
もちろん、後見制度について学ぶことができる機会としてはほかにも「市民後見人」制度がある。これは、法定後見人(高齢者が認知症になってしまってから家庭裁判所が選定する後見人)には通常、弁護士や司法書士などの士業資格者や親族が選ばれるが、一定の講座を受けることで一般市民が後見人になることができる制度だ。この講座は自治体などでも実施されているが、東京大学の生涯学習論研究室チームでも実施していて、レベルの高いことで知られている。修了生はこれまでに約4000人に達しているようだ。
また、現在の後見人制度は、一度後見人と契約すると本人の症状が治らない限り一生続くことになるが、もっと使いやすい「スポット後見」制度が新たに創設されることが検討されている。これは、被後見人が自宅を売却する、グループホームに入居するといったときだけに後見を依頼する仕組み。この制度が発足すると家族にとっては費用などの負担が大幅に軽減されるため、後見制度の普及が加速するのではと期待されている。そうなると、不動産業者にとって後見制度に関する知識習得はますます必須となるだろう。それと同時にビジネスを広げる武器ともなる。