社説「住宅新報の提言」

相続税強化への対応 不動産業の革新につなげよ

 税収不足に悩む政府は、相続税の大衆課税化に動き出した。小規模宅地評価減の適用厳格化や、基礎控除額の4割引き下げなどだ。これらの措置で、課税対象者は従来の約1・5倍になると見られている。家計資産の7割以上が住宅・宅地といわれる日本では、従来から金融資産を不動産に変えて評価を圧縮する節税対策が行われてきた。相続税の大衆課税化は、こうした対策の必要性が富裕層だけではなく、より広範な一般世帯に拡大することを意味している。
 例えば、10年4月1日以降の相続から始まっている小規模宅地の特例厳格化は、主に2次相続で影響が大きい。従来なら1人住まいの母親が死亡した場合、相続した子供がその家に継続居住しなくても200m2までは5割の評価減が受けられた。しかし、改正後は継続居住しない限り減額はゼロである。

親身でコンサルする時代

 同居や継続居住が無理なのであれば、高齢の母に一人暮らしをさせておくよりも、母親には介護付き高齢者住宅に転居してもらい、空き家になった自宅を賃貸に出しておく方法が相続対策としては有効である。そうすれば相続が発生しても不動産賃貸業の継続ということで200m2までは50%の評価減が適用される。空き家にしておくよりも家賃収入が入る点も魅力だ。管理が面倒臭いというのであれば、定期借家権で貸しておき、相続税申告期限後は売却することもOKである。
 これはほんの1例だが、これからの相続対策には少子高齢化を背景に早めに、しかも親子間の感情などにも配慮した親身の内容が求められることになるだろう。課税対象のすそ野が広がるというだけでなく、高齢者施設にも精通しているなど、より専門的かつ地域密着型の相談業務になるという意味で、不動産業界のビジネスチャンスになるのではないかと期待される。
 相続税の最高税率が従来の50%から55%になることなども含め、今回の相続大増税に対しては批判も多い。一方では高齢者から子や孫世代への資産贈与が増え、経済の活性化につながるのではないかといった前向きの評価もある。
 そうした論議はここではおくとしても、相続コンサルが地域に根差した不動産業の新しいビジネスにつながる可能性を秘めていることは間違いない。中小不動産業界にとっては、やる気さえあればイノベーション(事業革新)を起こす好機である。もちろん、税理士や司法書士など関連専門家との連携強化は必要だ。それ自体が、地域不動産業の変革となる。
 もうひとつ、強く認識すべきことがある。それは、不動産は所有しているだけでは駄目で活用できていなければ、むしろ「資産」とは言えない時代が本格化してきたということだ。
 日本経済の成長路線がなかなか見えにくい今こそ、空き家の再生やアパートの建て替え、高齢者住宅の建築などに地域の不動産業が積極的に関与していく絶好のチャンスである。