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大言小語 番狂わせ

 王国がひっくり返った。とはいえ政権交代というほどの話ではない。10月14日、サッカー日本代表が初めてサッカー王国ブラジルに勝利したのだ。来年のW杯で優勝を目標に掲げる日本。直近の強化試合の結果は芳しくなく、この試合も前半2失点と敗色ムードが漂っていたが、後半一挙3得点で逆転。ホームでの親善試合とあって相手の本気度も測りかねるが、強豪チームのミスを見逃さず各局面で粘り勝ちした。

 ▼格下が格上に勝つ。スポーツの世界では「ジャイアントキリング」「下剋上」と言う。戦前のデータに基づく勝敗の見立てを狂わせたチーム力の勝利は歓喜を呼ぶが、勝因の一つはメンタリティーだろう。相手の力に怖じけづいたり、リスペクトしすぎたりすれば守勢にまわり、後手をとる。「あこがれるのをやめましょう」。大谷翔平選手がWBC決勝前でチームを鼓舞したように、強豪・難敵と闘う姿勢に共通項が浮かび上がる。

 ▼番狂わせといえば、日本の政治局面も同様だ。自民党総裁選の結末が未知のシナリオの出発点となり、与党の枠組みの変化や新政権誕生の選択肢など見通しは不透明。変革の時代を体感できる好機と思いつつ、生活者目線では物価高時代の先行きに一定の安心要素を示してほしい。粘り強さと勝者のメンタリティーが指揮権獲得の鍵となるかは定かではないが、観客すなわち国民を置き去りにしたパフォーマンスだけはごめんである。