「損か得かの環境」でいいのか
国土交通省が、環境に配慮した不動産(環境不動産)について、先ごろ報告書をまとめた。
ここでは、環境性能には経済価値があるという種々のデータが提供されているので、そのことを考えてみたい。
そのひとつが新築の分譲マンションについて、東京都マンション環境性能表示があると、表示がないマンションより募集価格が5・9%高くなるという。同様に東京都マンション環境性能表示データを、自治体版CASBEEに変えて分析したところ横浜市や川崎市では2・9%、大阪市、京都市、神戸市でも0・4%高い結果が得られたという。
環境の負担は惜しくない
さらに別の手法を用いてユーザーの評価を分析したところ、住宅購入予定者がCO2排出量を90年時の世帯当たりに比べ25%削減できる新築マンションであれば、約195万円を追加で支払う意思があるという結果になっている。この場合、光熱費の軽減が20年間で120万円減るという設定で、これを考慮しても約75万円追加的に支払う意思がある。
一方、オフィスワーカーにおいても注目される。環境負荷の低減に関する性能が高いオフィスビルであれば、従業員個々の負担として標準的なビルより月々約2100円追加的支払いの意思があるという結果が出ている。
さて、この結果に「やっぱり、そうだよね」と納得するか、「へえ~、そうなんだ」という感想を持つか、受け止める側の判断はどうだろうか。
住宅ローンをやりくりして、精一杯の買い物をする購入者に、追加的な投資をすることで、将来的な資産価値を担保できると考える余裕が果たして内在しているのだろうか。
環境に配慮した働きやすいオフィスであれば、仕事の効率がアップする蓋然性が高いと洞見する経営者にもなかなかお目にかかれない。
意志の顕在化のために
断わっておくが、公表された内容に疑義を持っているのではない。投資を呼び込むためには、まだまだデータは足りないし、整備しなければならない課題も多い。今回はユーザーの意思を調べたものだが、オフィス賃料に実際にはどう反映されているのか。資産価値に、どう影響しているのかなど、さらに突っ込んだ仕掛けが必要なのだ。なかでも環境不動産の価格形成要因についての知見を専門家である不動産鑑定士にのぞみたい。低炭素社会構築に向け、わが国政府のCO2削減目標が明確に表示されたのは、ひとつのきっかけに過ぎない。効果がいまだ分かりにくいと逡巡しているのでは損か得かだけだ。
環境省の調べによると、企業が環境対策として行った投資額は2008年度で設備投資全体の3・2%にあたる1兆5232億円に達している。企業は合理的な経済活動とともに、別の視座を併せ持つ必要に迫られているともいえる。