社説「住宅新報の提言」

消費者庁が始動

トラブル防ぐ手だてを
 消費者庁が9月1日に発足してから1カ月以上が過ぎた。
 同庁の消費者情報ダイヤルにも多くの相談が寄せられている。
 これまでも消費者の電話相談窓口はあったが、一元的な相談窓口ができた成果が早くも出ているようだ。
 消費者庁の開設は国、地方が一体となった消費者行政の強化が第一の狙いである。
 私たち多くが事業者であって同時に消費者でもある。消費者の立場に立てば、便利で分かりやすく、専門性を持った相談員が迅速に対応してくれる仕組みができたことは歓迎すべきである。
 一方、事業者という立場に立てば、よりきめ細かく消費者の要望やクレームに対応しなければならない時代が到来したことを理解する必要がある。
業法を消費者庁と共管
 不動産業界でも、宅建業法が消費者庁と国土交通省の共管となった。消費者庁は宅建業者の処分について勧告権と、そのための検査権限を持つ。また、処分について事前協議を受けることになっている。
 9月1日には改正宅建業法も施行された。「重要事項の説明等」を規定する第35条1項14号の改正が中心とである。この中では、消費者が宅建業者から不動産を買ったり、借りたりするときの保護に関する事項を内閣府令と国土交通省令で定めるとされている。
 ところが、法律は施行されているのに、この省令はまだ交付されていない。そのため消費者庁がどのような形で国土交通省と共管するのか、分かっていないのが現状である。すみやかに関係省令が交付されることを望みたい。
重説で購入動機確認
 どのような形で共管されることになるにしても宅建業法の「重要事項の説明」は難しい問題を内包している。
 例えば消費者が宅建業者から不動産を購入した場合、付近に嫌悪施設があったとして、その問題について考えてみたい。
 嫌悪施設の重要事項説明については明確な基準がない。そのため、この施設があったら、買わなかったのに、事前に説明がなかったというような事案が、消費者情報ダイヤルに持ち込まれる可能性は十分にある。
 嫌悪施設はどのような位置にあるときに説明の対象になるのか、国土交通省はガイドラインを示すべきではないか。もし、行政が示せないなら、業界が自主基準を制定すべきではないだろうか。
 客観的にみると、その施設の存在が買主の購入意思の決定に影響を及ぼすかどうかが、説明対象になるかどうかの分かれ目、判断基準になるだろう。
 そこで「重要事項の説明」にあたっては、購入動機の確認を説明書の冒頭に書くことを提案したい。
 また、宅建業者は調査した項目だけでなく、調査していない項目についても、説明書に書いて、「当該不動産の周囲100メートルを超える嫌悪施設については調査しておりません」というように、非調査項目を明示するようにしてはどうか。
 消費者庁の開設は消費者の立場が従来より強くなることである。住宅・不動産業界もトラブルを未然に防ぐ手立てを自ら考え、確立する時代を迎えたことを示している。