売買の「IT重説」本格運用が間近に
「IT重説」とは、宅建業法35条に基づき宅建士が行う重要事項説明を、テレビ会議等のITを活用して行うもの。賃貸取引では社会実験を経て、17年10月から本格運用を開始。「遠隔地の顧客の移動・費用等の負担軽減」や「来店困難時でも本人への対応可能」といったメリットを強みに、賃貸現場での活用が進んできた。
売買取引においては、19年10月から社会実験が始まった。当初は登録事業者数59社で、期間は20年10月までの1年間としていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、ニーズや注目度が上昇。登録事業者や実施件数が急増したため、期間を延長している。
安全性は確認
国交省で今年1月に開かれた「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会」での報告によると、20年12月時点の登録事業者数は854社、実施件数(アンケート回収件数)は2289件となった。実証実験におけるトラブルは宅建士・説明の相手方共に約9割が「なかった」としており、トラブルが発生した場合も結果的に対処、解決がなされていることが分かった。ただし、同検討会ではアンケート結果でIT重説に要した時間が「30分未満」という回答が19・7%あったことや、「事前に内覧はしなかった」ケースが71・0%あったことなどに懸念を示す声もあった。IT重説自体についての問題はないものの、通常の重説や取引時と比べ、説明や検討を省略あるいは簡素化している様子がうかがえるとの判断であり、今後も取引態様を注視しながら、本格運用へ移行する流れとなった。
書面交付等が課題
実験開始当初から不動産投資サービス「リノシーアセット」で参加するGAテクノロジーズ(樋口龍社長)は、1年間(19年10月~20年9月末)で242件のIT重説を実施。すべてが投資用不動産だった。昨春以降はコロナ対策として、IT重説を活用した〝完全非対面契約〟に移行し、面談から契約まで1度もエージェントと対面することなく売買契約を締結する体制を整え、約70件(50名が利用)を実施した。
同社がこの50名に対して実施した非対面契約に関するアンケートでは、大多数から「オンライン契約の実用化を望む」「手続きの利便性に満足した」という声をヒアリング。更に今後、電子化をする望むものとして「署名・捺印」「書類等の確認」「書面の返送」などの回答を得ている。
同社ではIT重説において取引の安全性に懸念はないものの、顧客が十分な利便性を感じるには書面交付等が課題になると指摘。「今後、制度の整備が進み、業界全体での認知度が高まれば、商圏や顧客属性の広がりも期待できる」としている。
国交省「電子書面」社会実験も本格化
そうした中、重説時に用いる書面のデジタル化を可能とするため、売買取引においても社会実験が開始されることとなった。対象の書面は、重要事項説明書(宅地建物取引業法35条)および契約内容記載書(同37条)のほか、媒介契約書(同34条)。
先行している賃貸取引の社会実験は19年10~12月に実施した後、ガイドラインの見直しなどを経て20年9月に再開。実験再開後、20年12月末までの3カ月間で追加登録事業者数は6社(合計119社)、実施件数は9件(同118件)と実績が不十分なことから継続実施となっている。アンケート結果では、「時間短縮」や「保管が容易」などのメリットが挙げられている一方で、現行法の規定上、社会実験においてはデジタル書面と紙の書面の双方が必要となることなどがその要因と想定される。
家賃債務保証のCasa(宮地正剛社長)はこのほど、賃貸取引のデジタル書面に係る社会実験への参加を表明した。DX推進を事業方針に掲げる同社では、契約管理システム「CasaWEB」において電子署名・契約の世界最大手ドキュサインと連携し、各種契約のオンライン化、ペーパーレス化に取り組んでいる。同社が開拓強化を目指す自主管理家主の物件に対して、賃貸取引の電子化の社会実験を行っていく考えだ。
なお、賃貸、売買いずれのの社会実験も、現在のところは明確な期限は定めずに「当面の間」実施していく。また、参加には登録申請が必要となるものの、登録事業者はどちらの社会実験にも参加できる。
「IT重説」完全電子化は22年解禁
政府は2月9日、デジタル関連法改正法案などを閣議決定、国会に提出した。行政手続きや契約等の際、押印や書面の交付等を求めている48の法律を一括で改正するもので、事業者の実務への影響が想定されている。
宅地建物取引業法については、34条(媒介契約)、35条(重要事項説明)、37条(不動産取引契約)に基づく各書面について、紙の書面に代えて電磁的方法による提供(デジタル交付)を認め、宅地建物取引士の押印を不要とする。公布から1年以内の施行としており、22年に迎える施行日が賃貸取引、売買取引共にIT重説の完全デジタル化の解禁日となる。
これにより、今後賃貸・売買取引の分野で新たなビジネスモデルが登場する可能性も考えられる。ますます注目度が高まるテーマだ。