キューバに赴いたのは6年前の夏。知人には「フィデロに会いに行く」と、大口をたたいたが、会えるわけはないのだ。現地の人は「フクシマ」の地名を口にして、こちらを気遣う。地球の裏側で接する親切に感謝した。ハバナから車で、少し離れた海岸沿いでは石油コンビナートの建設が立ち遅れていて、周囲には石油の匂いが漂う。子供の頃の懐かしい石油ストーブを思い出す。原子力の疎ましさが、皮肉にも募った。
▼ハバナでホテルのガードマンと、夜の街に繰り出した。「ヘミングウェイが行きつけたのは有名な場所だけじゃない」と、地元の客であふれる酒場には文豪の写真が飾られていた。モヒートの杯を重ねながら彼は時に小さい声で、「ラウレは、実は国民にまったく人気がない」などという。警察の腐敗を嘆き、「アメリカ、アメリカ」と、共産主義には飽き飽きしたという様子。「そんなにいいものでもないよ」と、一言釘を刺しておいた。
▼2月に「日・キューバ官民インフラ会議」がハバナで開かれた。昨年9月の日・キューバ首脳会談に伴うもの。インフラ整備に追われるキューバで、日本の強み「質の高いインフラ」を売り込む。国交省やインフラ関連企業28社が出向き、キューバからは建設大臣ほか各官僚が出席。両国間で強力関係継続の覚書を締結した。6年前には思いもしなかった出来事である。
▼隔世の感がある。