不動産経済研究所によると、21年の首都圏マンション戸当たり平均価格が過去最高を記録した。価値あるものに適正な対価を支払うのは当然のことであり、価格の上昇自体を一概に問題視する気はないが、「高過ぎて売れない」ともなれば、それは需給双方にとって課題となろう。
▼開発適地の地価や資材価格等が上昇すれば売値も上げざるを得ないものの、本来、購買力も同じだけ上がっていれば特に支障とはならないはずだ。初の東京五輪が開かれた64年当時に1杯50円だった「かけそば」は、約20年後に320円と6倍以上に値上がりしたが、それを「そばの高騰」と呼ぶ声は聞いたことがない。
▼ちょうど国内の労使団体トップが会談し、実質的に今年の春闘が始まったところだ。事業者側として賃上げは避けたいのが本音だろうが、国民の所得向上こそが経済を活性化させ、各企業の収益上昇の礎となることは間違いない。
▼「衣食足りて礼節を知る」と言うが、より正確には「衣食〝住〟足りて」ではないか。近年の世情不安を見るにつけ思う。経済的理由で住まいを追われてしまった人は、失うものがなく容易に犯罪に走る〝無敵の人〟にもなりかねない。国民所得が上がらなければ豊かな住まいが広く行き渡ることもなく、住宅事業者をはじめ国内の各産業や治安にも暗い影を落とす。大げさかもしれないが、経済界や政界の賢明な判断と具体的な行動を願う。