米国の景気後退懸念がくすぶるが、国内の住宅・不動産事業者はインバウンド需要が拡大する商機だとみている。円安が加速しているためだ。
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米FRB議長の「経済的な痛みを伴ってもインフレ抑制に注力する」とした8月26日の講演発言を受けて株式市場は日米とも大幅に下落した。マーケット関係者は、「発言自体に新鮮味はないが、タカ派的な発言が鳴りを潜めるという楽観的なムードに覆われていただけに株価が反応した」との見方をする。日米金利差も拡大が加速するとの観測を受けてドル円ベースは1日に1ドル=140円台にまで円安に振れた。円安が続くとみられる中、インバウンド需要拡大に期待する開発事業者や仲介事業者は少なくない。
不動産サービス大手のCBREによれば、海外投資家によるインバウンド直接投資額は21年に103億ドルと前年比21%減少した。大型取引による反動減を反映したものだが、その部分を除けば投資額は横ばいが続いている。同社が昨年末に実施した投資家意識調査では、アジア太平洋地域の魅力的な都市として東京が3年連続で1位だった。22年の投資額は21年を上回る可能性を指摘しているが、想定以上の円安水準によりインバウンド投資が加速しそうだ。
海外勢の中でも東アジア圏の個人投資家は、円安局面でいち早く資金を日本に振り向けており、かつて不動産市場を席巻した台湾を中心とする華僑投資家マネーが舞い戻って存在感を放ち始めた。
台湾仲介最大手の信義房屋不動産(東京都渋谷区)の何偉宏(カ・ウェイホン)社長は、「円安が進んだことで1年前に比べて物件価格は2割安になっている。顧客の中には150円まで円安が進むとの見方をする人もいるが、今が購入のベストタイミングだとみる顧客が多い」と話す。
同社の上半期(1~6月)の取引件数と取扱高は前年から3割増えて上半期として過去最高を記録し、9月末には前年の通期を上回るという。在日華僑と台湾本土の投資家の買い意欲はおう盛だ。在日華僑の購入者の場合は実需を目的とすることが多い。台湾など海外からはオンライン取引で投資として資金を投じている。同社が20年に調べたところによれば日本に在住する台湾人は東京に約2万人、大阪で約7000人と在日人口が少ない。実績としては海外からの投資比率が高くなる。
環境と制度が整備され、政治も安定してリスクが低いことが日本人気の理由だ。地政学リスクも意識され、中台関係が緊張していることで有事を想定して日本に居住地を確保する傾向も強まっている。台湾人は35%が海外に何らかのかたちで資金を振り向けているとされる。台湾に限らず中国や香港、東南アジア圏の華僑が円安を機に日本の不動産に注目している。(中野淳)