「酒場遺産」なる私的な酒場探訪記を書くこととなった。かつて20年以上前に同名のブログを書いていた頃、いまだ昭和の生き残りのような酒場は多く残っていたが、多くは個人経営で後継者が見つからずに店を閉じたり、再開発エリアに入っていたために木屑のように解体されたり、また大きなビルの一角に地権者として新店を構えても、かつてのオーラが消えてしまった酒場も多い。 そしてコロナ禍は、後継者不在の酒場にとって「この機会に店を閉じる」決断の機会となってしまった。とはいえ、いまだ都内にも多くの素晴らしい酒場が残っている。このシリーズでは有名無名に関係なく筆者の嗜好で選んだ。そのほとんどは、古く、小さく、ディープなオーラを纏った和酒場だ。お付き合いいただけると幸いだ。
初回は神田司町「みますや」。明治38年創業、酒場好きの間ではよく知られた都内最古の酒場のひとつである。いつも混んでなかなか入れないが、コロナ禍中はさすがにガランとしていた。
木造2階建ての店には「明治三八年創業みますや」の看板と「どぜう」と書かれた赤提灯がぶら下がる。土間の大空間に古い木の大テーブルが置かれ、座敷の畳もいい感じだ。ひとり飲みでは、定番の谺熱燗二合、焼鳥と焼茄子で勘定は1500円くらいで済ます。日本酒も豊富で真澄・九平次・黒牛・田酒・八海山・貴・・など正一合700~800円で飲める。仲間と飲む時には名物の泥鰌丸煮や馬刺しなどを頼むとよい。一人5000円くらいまでだろうか(飲み方による)。混んでいると注文が通らないのが難だが、鷹揚に構えたい。間違いなく素晴らしい酒場だ。(似内志朗)