地下鉄小川町と神保町の間辺り。以前、この辺りに用件があり、角打ち「神田和泉屋」を偶然見つけた。店構えは、素っ気ないほどにシンプルだ。しかし店に入り、正面に並んだ一升瓶を見て驚いた。香櫨と上喜元を除いて知っている銘柄がないのだ。薦められた宇都宮の酒「四季桜」普通酒を燗で飲むと素晴らしく美味い。他の酒も原価近い価格で飲むことができる。
店主の横田達之氏(師匠と呼ばせていただく)は日本酒の卓抜した知識と哲学を持つ。御年82歳の師匠は日本酒学校を開き、教え子を多数輩出、『お酒の話-日本酒言いたい放題』という本を上梓。神田商店街連合会の会長も務めたという。7年前に酒屋で角打ちを始めた。「他の店に置いてある銘柄を並べても意味がないじゃないか」と言う。師匠が30年前から共同開発してきた栃木県宇都宮の酒蔵の「四季桜」(普通酒)は、一升2000円程度という価格から想像できないほどパーフェクトな日本酒だ。特に燗は最高だ。
そして酒の美味さを引き出す、鮪酒盗、鶏皮ポン酢、イカ塩辛、鯛腸汐辛、ふぐ糠漬、松前漬けといった小皿は300円程度で絶品ぞろいだ。この店は、1階は神田和泉屋乃「酒庫(さけっこ)」(角打ち)、2階は神田和泉屋乃「坐(くら)」という居酒屋となっている。今回紹介したのは角打ちだが、「坐」も小さいが素晴らしい酒場なのでいずれ紹介したい。
師匠は明晰で歯切れよいが心根は優しい。話をしているだけで元気をいただく。間違いなく、都内角打ちの最高峰の一つと思う。開店日や時間など、事前に確認してから訪れることをお勧めする。(似内志朗)