海水面の全体の水位が下がったが、船底が海底に着地したため、様々な船が今も浮かんでいるかのように見える。ただ水位が戻ると、他船は浮かび始めたが自船だけは沈んでいく。なぜなのだろう。自船だけ船底に大きな穴がいくつも空いていたのに、対処していなかったからだ。
▼米国のシリコンバレー銀行、欧州の名門銀行クレディ・スイスも事実上破綻した。過剰な利益追求が背景にあったよう。大手IT企業では、オンライン化の世界的な広がりを過度に期待して人材を確保した揺り戻しで整理解雇が始まった。対デジタルの抵抗勢力が根強く、IT企業が自社の社員に出社の勤務を要請する「ミイラ取りがミイラに」なった。
▼かつてのローマ帝国は、その衰退の要因の1つで軍事費の拡充があった。現在の日本も防衛費の拡大を図り、ある有名芸能人から「新しい戦前」と揶揄(やゆ)された。フランスに、「ノブレス・オブリージュ」という戒めの言葉がある。財産や地位を持つ者は「義務」を伴うという意味があるそうだ。
▼大手や老舗企業、国家は現状を真摯に受け止め、あるべき姿、望み高い未来を示す義務がある。企業や国家を私物化し、自身や太鼓持ちの子分、派閥が楽に利得して私欲を満たすために怠慢な日々を過ごせば、遠くない将来に破綻する。経済の大海原の水位が戻った時に他船は浮き始めても、穴だらけの自身の泥船は、ただ沈みゆくのみである。