媒介契約は売主・買主と宅建業者が交わす業務委託契約みたいなものだが売主・買主から見てその意味は2つある。1つ目は売買契約がスムーズに進むように、2つ目は契約の目的が達成できるようにする契約ということだ。
法律上は準委任契約なので契約を交わしたなら善良なる管理者の注意(善管注意義務)をもって業務をしなければならない。要は「不動産取引のプロとして依頼をしているわけだからプロの水準に満たない業務をして私たちに損害を与えたならそれはプロであるあなたたちの責任ですよね」こう言えることになる。特に冒頭に挙げた取引の流れと契約目的の達成は重視され、これらが売主・買主から見てプロ水準ではないと見なされ紛争事例となったケースは裁判の判例に多くある。
ただ救いなのが争いにはなっても普通に報告や連絡、相談を誠実にしていればプロとしてきちんと業務をやっているよねと裁判所はセーフを出してくれていることだ。その意味ではプロの水準と言っても高いレベルの話ではなく、案外低く、普通に売主・買主と相談をしながら仕事を進めていれば最悪争いになっても責任を追及されないと言える。具体的には、「売買契約が終わったから後は自分で住宅ローンの本審査とかを進めてください。特約期日まで本審査承諾を取らないと手付解除になりますよ」、これでは普通に仕事をしているというよりも、仕事を投げ出しているので争いになったら負けるかもしれない。
一方で「この期日までに住宅ローンの本審査の必要書類をそろえて申し込んでください。特約期日までに間に合わず本審査が否決なら最悪手付解除になり手付金は戻ってきませんよ」、この程度案内や説明が出来ていればセーフになる可能性が高いということだ。売主・買主から「そんなにしつこく言わなくてもいいですよ」と言われても、案内や説明をしっかりしておくことは身を助けることにつながると言える。
このように媒介契約は宅建業者にとって重要なのだが、重要事項説明や売買契約と比べてなぜか軽視されがちと言えるかもしれない。意味や内容もよく知らず、また重要と思わずに仲介手数料をもらうための1つのステップという認識で処理される方も多いだろう。実際に筆者もその一人だった。若い頃は媒介契約書を売主・買主に特段説明もなしに「ご住所とお名前を記入してください」で済ませたことがある。今更ながらよく問題にならなかったものだと感謝している。したがって不動産取引の営業パーソンになったら重要事項説明、売買契約と同じぐらい媒介契約の意味や立ち位置は知っておいたほうが身を守るためにも、会社を守るためにも良いかもしれない。長く不動産取引に関わるなら必須と言えるだろう。
【プロフィール】
はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。
2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。