不動産業界を取り巻く事業環境は複雑さが増している。人口減少に伴う地方衰退などから派生する諸問題が相続対策や空き家問題などを難しくしている中で、宅地建物取引士(宅建士)などが果たすべき役割の重要性が指摘され始めており、不動産各社も社員の個人能力をいかに引き上げていくかに苦心している。不動産流通推進センターでは、「公認 不動産コンサルティングマスター」で学習する分野を広く提供し、権利調整やアセット・マネジメント、CRE戦略、事業承継などさまざまなケースに対応できるように工夫している。コンサルティングの時代が到来した。不動産流通推進センター理事長の坂本久氏に同マスター資格の有用性などを聞いた。
不動産流通推進センター 坂本久 理事長に聞く
――マスター資格ができた経緯と、これまでの受験者数と合格者数について。
「社会を取り巻く環境の変化に伴い、不動産に関するニーズは多種多様となり、不動産の流動化・証券化の進展などにより、不動産をめぐる制度も大きく変化した。インターネットの普及で、消費者が容易に情報を入手できるようになり、その知識もプロに近いレベルまで高まっている。 必然的に私たち不動産の専門家にはより一層、的確な情報や、有益で高度なノウハウを提供することが求められ、不動産の取得や処分だけでなく、維持や有効活用、投資等の幅広く、高い専門知識と豊富な経験に基づく不動産コンサルティング能力を備えた人材の必要性が高まっている。
1992年7月に、宅建主任者の人材育成等を目的とする『不動産コンサルティング技能の審査・証明事業』(建設省告示第1277号)により、宅建主任者の人材育成等を目的とする『不動産コンサルティング技能の審査・証明事業』が創設され、同年10月にセンターがこの建設省告示による事業者として認定を受けたことで、不動産コンサルティング技能試験・登録制度が『認定事業』としてスタートし、93年の『特例試験』から事業を開始した。」
創設以来31年の実績
その後、不動産コンサルティングが新たな業務として社会的認知を得て広く定着するためには、業務の独立性と報酬のあり方の整備が必要との考えから、99年9月21日、行政・業界団体・学識経験者等からなる「不動産コンサルティング制度検討委員会」にて報告書がまとめられ、不動産コンサルティング制度の発展のための方策や、不動産コンサルティングが独立した業務として報酬を得るための要件などが示され、さらに同年12月に同制度は不動産特定共同事業法に関連付けられた。
同事業を執行するために必要な「業務管理者」の要件は「不動産特定共同事業法施行規則(省令)」に規定されているが、推進センターは「不動産特定共同事業の業務管理者としての能力の審査・証明事業を行う者」として指定され、同制度が省令に付帯する「不動産特定共同事業の業務管理者としての能力の審査・証明事業認定規定」(99年12月1日・建設省告示第2044号)に基づく「認定事業」との位置づけになった。
2000年9月1日には「不動産投資顧問業登録規程」による不動産投資顧問業の登録制度、07年9月30日施行の金融商品取引法における不動産関連特定投資運用業の登録要件としても関連付けられ、同資格の活用分野は広がっている。
――マスター資格保有者が実際の仕事でどのように活用しているか。
「受験できるのは国家資格である宅建士、不動産鑑定士、一級建築士のいずれかの登録者。これまでの受験者数と合格者数については23年度まで全31回実施され、受験者総数は 6万3262人となり、4万0144人の合格者を輩出している。直近5年を見ると、毎年の受験者が1000~1300人余りで平均の合格率は4割程度だ。24年1月末時点におけるマスター資格保有者数は1万5335人。現時点の資格保有者は合格者全体のおよそ4割となっている。これは試験合格後、マスター資格登録には、一定の実務経験証明が必要であるため、合格後すぐに登録をしないケースがあることや、登録後も能力維持向上のため5年ごとに資格更新を継続する必要があることなどが影響しており、保有者は、おおむね1万5000~1万6000人の範囲で推移している。」
幅広い分野で活躍を
不動産コンサルティング業務は、依頼者の要請に従い適切なアドバイスを行うもので、さまざまな業務分野・領域でマスター資格を活用できる。例えば、建築や投資分析などで幅広い不動産コンサルティングの知識と能力が求められる。依頼者のために、その不動産の最も適切な活用法を見極める能力だ。
また、相続対策を機に依頼を受けることも最近は増えている。そのまま保有か、建て替えか、売却すべきか、資産の組み換えをするかなど選択肢は多岐にわたる。
マスターが学習する事業分野の例を挙げると、等価交換や権利調整、定期借地権・定期借家、アセット・マネジメント、プロパティ・マネジメント、既存建物の有効活用、CRE戦略とROA、不動産M&Aなどだ。
また、不動産特定共同事業を行う場合に必要な「業務管理者」を求める事業者が増加しており、「公認 不動産コンサルティングマスター」は「業務管理者」になれる資格の一つと位置づけられている。
――不動産会社の経営陣や管理職クラスのマスター資格に対する評価について。
「マスター資格が宅建士の次に取得すべきものとして広く認知され、約30年にわたり、多くの企業において昇格要件や、推奨資格に採用されていることは、仲介業務の知識だけでは顧客ニーズに応えることができず、不動産コンサルティングの知識や技能が必要とされていることの証左であろう。
また、マスター認定後も更新のためには継続して学習することが必要としている姿勢や整備された制度が取り組みやすいものとして業界内に受け入れられていると認識している。しかしながら、これから活躍の場をもっと広げるためには、業界内だけでなく、広く一般に周知されることが必要になっている。」
相続・リノベ・不特事業にも対応
――空き家問題と地域創生がクローズアップされる中で、マスター資格が果たせる役割、潜在的な可能性についてどのようなことを想定するか。
「マスターの業務はそれぞれの経験と金融経済、税制、建築、法律の知識を駆使しながら、個別性が強い不動産のポテンシャルを理解し、さまざまな手法などを活用しながら顧客や社会のニーズに応える業務である。
現在、社会問題としてクローズアップされている空き家や地方創生などは不動産の活用と大きく関係しており、マスターが果たせる役割は小さくはない。
土地や建築物の賃貸借に関すること、リノベーションやコンバージョンなど既存建築物の活用に関すること、争いの元となりがちな不動産の分割について争わない相続対策を提案することなど空き家にしないための役割をいろいろな場面で果たすことができる。
例えば、個々の家を空き家にしないためには継続して使うことが必要であるが、相続などにより自己で使用する目的がない場合にどう使っていくか? そこにどのような問題や障害があるか? を把握し対処する方法を提供することがマスターにはできる。
また、やむを得ず空き家となっている建物などについても犯罪や朽廃を防ぐために適切に管理することが必要とされているが、マスターは大都市圏だけでなく日本全国に散らばり、それぞれの地域に密着して活動している。
マスター資格者の中には、定期的な見回りなどを実際に行っていたり、古い建物を活用し、新築とは違ったニーズを呼び込むことや、点ではなく面でその街の歴史や特徴、街並みを保存して地方の再生に寄与する活動を行っている者もいる。そのような活動をさらに周知し、広げることが、明確なマスターの役割であると認識付け、活動の動機付けとすることができると考えている」
――マスター資格を広く認識してもらうために、どのような普及活動が必要と感じるか。
「当然ながら、ホームページや広告媒体などを通じて周知を高めていくことが必要だが、存在を認知してもらうだけではなく、前述したような場面で実際にマスターがどのような業務を進めて成果をあげているかなどを多数公開し、共有していくことで理解が高まると考えている。
24年度、推進センターでは、国土交通省や不動産業界団体、事業者、そして全国のマスター資格保有者に協力をいただき、PRツールの配布やイベント開催などを通して一般消費者にも訴求するような機会を設けていきたいと考えている」
業界ステータスに
――住宅・不動産業界の明るい未来に向けて将来の不動産ビジネス従事者へのメッセージを。
「不動産業は、人々の豊かな生活や経済成長等を支える重要な基幹産業である。人口減少やIoT等の進展など社会経済情勢が急速な変化を遂げる中でも、その動きを取り込みながら発展していくものであり、今後ますますその適応力や活力の発揮が期待されている。
地球温暖化、空き家や地域活性化などの社会課題に最前線で取り組み、貢献するという大きな役割も担っている。人の住まいや、仕事をする場所が無くなることはない。自然災害など予測不能な部分にも注意を払いながら、その度に対処する術や回避する術を得て、実践していくという役割もある。
不動産コンサルティング業務は多種多様な知識経験を縦横無尽に駆使し、社会や地域の問題を解決する業務であり、大きなステータスとなり得ると思っている。ぜひとも、『公認 不動産コンサルティングマスター』を目指し、大きなステータスを獲得して自分の仕事の飛躍につなげてもらいたい」