共有塀があった場合は取引の進め方に注意が必要だ。塀の安全性が確認できないと再建築のため撤去が必要なことがある。そうすると引き渡し時までに共有塀の所有者全員に撤去の同意を得なければならない。その交渉時間を考えると引き渡しまで時間的な余裕を確保した方がよいだろう。相当の時間と労力がかかることは想定しておきたい。
共有塀とは隣地との境界線上にあり、隣地所有者と共有となっている塀のことだ。確定測量を行えば共有塀かどうかが分かるが、そうでなくとも境界標と塀の関係を現地で確認するだけでも「塀の中心あたりが境界線なので共有塀である」とある程度判別できる。
また、築年数でも予想をつけやすい。昭和の年代は共有塀であることが多く、そうでなくとも施工精度の関係で結果共有塀となっていることがある。筆者も売主から「自分の敷地に塀をつくっています」と言われ安心して売却活動をしていたところ、確定測量後に土地家屋調査士から「施工精度の問題ですが、部分的に越境していますね」と言われ慌てたことがある。過去の私にそんなことぐらい予見していろよと言いたいが、今も見過ごすことがあるのでそこまで強く言えない。境界線が明確になっていない限りはまずは疑ってみることが肝要だろう。
共有塀の一番の問題点は「所有者全員の承諾がないと撤去ができない」ことだ。しかも、隣地所有者にとって共有塀の撤去は利益がない(利益があると感じられない)なら雑な交渉をするとあっさり断られてしまう。承諾を得られるように慎重に時間をかけて交渉をしなければならない。「慎重さと時間労力がかかる」ことにも注意が必要だ。
交渉は確定測量をしている場合は土地家屋調査士に依頼しても構わないが、撤去の重要度が高いなら自身で行うか、土地家屋調査士に同伴して自身で行った方がよい。1回交渉が失敗するとなかなか2回目はないからだ。緊張感をもって交渉に臨みたい。
承諾を得られた後は覚書の締結となる。覚書は撤去の同意と、それに代わる塀の作り方、かかる費用と労力負担について、第三者への承継などを記載し、共有塀所有者全員の署名捺印をいただいていく。
なお、承諾と覚書はできるなら売却活動前にいただいておく方が安心だ。ただ、売買契約前だとこの一連の作業が無駄になる可能性があるので、そのタイミングを決めるのは難しいかもしれない。各自で様子を見て判断となるだろう。
隣地所有者が隣地に不在の場合は、登記事項証明書を上げて現住所を確認してアクセスするが、多くは登記上の住所を現住所に変えていない。確定測量を依頼している場合は土地家屋調査士に職権で現住所を確認してもらい、その後隣地所有者につないでもらうようにしよう。
【プロフィール】
はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。
2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。