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社説 賃貸住宅修繕共済を門戸開放 大規模修繕計画の普及、定着へ

 不適切な維持・管理や修繕が原因となって、各地で老朽化した賃貸住宅に関わる事故が後を絶たない。借家ストックは2000万戸弱に上り、総住宅数の約3分1以上を占める重要な国民生活の基盤だが、民間の賃貸住宅は持ち家より腐朽・破損率が高く、築20年以降からその率は跳ね上がることが明らかになっている。

 それにもかかわらず一部サブリース物件などを除く民間の賃貸住宅経営では、計画的な修繕が定着していないのが実情だ。オーナー、管理会社の理解不足、資金不足が主な原因だ。こうした事態を重く見た業界団体の全国賃貸管理ビジネス協会(全管協)は国土交通省の認可を受けて、「全国賃貸住宅修繕共済協同組合」を運営母体として設立し、業界に先駆けて「賃貸住宅修繕共済」を21年にスタートさせた。

 同共済は、賃貸住宅のオーナーが修繕工事費用を計画的に備えることを目的としている。支払われた共済掛金は全額を経費計上できる国内唯一の制度だ。しかも大規模修繕工事資金を平準化できるという、オーナーにも管理会社にもメリットが大きい。

 昨年には、修繕工事の対象を当初の「壁・屋根」に「共用部」が追加された。更に「室内水回り内装設備」「解体工事」にも広げる要望を続けていく。

 今春には、全管協会員に限定していた利用者の範囲を、会員外でも共済に限定して取り扱いできる大手管理会社向けの準会員制度を拡充した。同協会は、「共済に限定した新しい会員区分を拡充したことで、より多くの管理会社が共済の取り扱いができるようになったことの意義は大きい」とコメントしている。

 事実上の門戸開放という方針転換によって、掛金運用の拡充を含め共済制度自体の安定運用に資することはもとより、民間の賃貸住宅経営に広く早く計画的な大規模修繕を普及、定着させることが期待できる。会員利益よりも公益を優先する姿勢の表われであり、社会的意義は高い。

 経年劣化が進む既存賃貸住宅は長期的な増加が見込まれている。しかしながら長期修繕計画を作成している家主は41%(22年時点)と半数に満たない水準にとどまっているのが実態だ。しかしながら修繕計画を作成していることで、これらのオーナー、管理業者はそれぞれ家賃水準の維持、高い入居率、長期の住宅性能の維持、物件の競争力アップといったメリットを実感していることが調査で明らかになっている。

 全管協には引き続き更に踏み込んだ同共済制度の利用拡大、利用促進に取り組んでもらいたい。またオーナー、賃貸管理会社は平時の維持、管理の延長線に長期的な視点に立った大規模修繕が賃貸経営には不可欠であるという意識を新たに、国民生活に安全と安心をもたらす賃貸住宅経営を実践してもらいたい。