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酒場遺産 ▶47 紀伊田辺 たか松 南紀一の酒場街「味光路」

 今回は和歌山県紀伊田辺の酒場である。大阪から特急「くろしお」で約2時間、紀伊田辺駅に着く。紀伊半島を左から3分の1ほど回った所に位置する。駅前にはバスで約2時間の熊野古道へ向かう停留場に並ぶ外国人観光客が目立つ。駅南口の西側エリアには200以上の飲食店が密集する「味光路」がある。南紀最大の飲食街で、かつて「親不孝通り」と呼ばれていたという。狭い路地が縦横に走る風景は酒場好きには堪らない。観光客もチラホラ見かけるが、地元客に愛されている場所だ。味光路には「とっくり」「徳乃」「炭人」「東風」「ふくちゃん」「むそう」「かんてき」など名の知れた店があるが、今回は筆者が偶然に入った大衆食堂「たか松」である。

 昭和23年にこの地で創業、70歳過ぎであろう女将は2代目という。筆者がこの店に立ち寄ったのは夕刻5時ごろ、長いカウンター席の端に座り女将とボチボチ話をしていたが、30分もしないうちに常連客で満席となった。価格が記されていないのも一見客が少ないからだろう。かつて紀伊田辺にも造り酒屋がいくつかあったが廃業し、今はもっぱら白鹿という。目の前で煮込まれているおでんが気になり、大根・玉子・牛すじ・餅きんを頼んだ。どれもしっかりと味が染みて美味しい。そして女将の薦めてくれたかつお造り。「かつおが新鮮だからタタキにしないのよ」という。絶品でした。

 目の前の白板には手書きで書かれた本日のメニュー。かつお造りの他、めまいか糸造り、鯖きずし、小エビ唐揚げ、鶏もつ煮、わけぎ酢味噌など。シメに、かしわうどんをいただく。これも美味かった。かつて食堂だった頃の名残らしいが、うどん種々、焼き飯、焼そば、チキンライスなども充実している。じっくり飲んで会計は4000円。地方の豊かさを感じる。(似内志朗)