総合

社説 安全・安心と省エネ化を両立 健康長寿国へひと部屋断熱を

 人口減少と高齢化が進むこの先、一人暮らしなど高齢者小世帯は確実に増加していく。中でも低所得層の高齢者小世帯という住宅弱者対策は長期的課題だ。来春には改正建築物省エネ法が全面施行され住み替え、買い替えのハードルが上がること必至で、中古住宅へのしわ寄せも懸念される。

 これらの対策の糸口となる「ひと部屋断熱」活動が今、広がりを見せている。文字通り居住する住宅の一部屋だけ断熱性能を向上させる部分改修を促進していく取り組みで、負担は最小限、小規模でも省エネ化に加えて、社会保障コスト抑制につながる健康長寿に資することが何よりもメリットだ。

 医療や建築の専門家からも「ひと部屋断熱」に対する期待が高まっている。前日本医師会副会長の今村聡氏は、断熱性の悪さから冬季の室温、特に寝室の温度が低く、冬季の循環器疾病(心筋梗塞、脳卒中等)が多く発生すると指摘し、住環境の改善を求めている。

 長年、断熱改修前後の調査研究に取り組んでいる慶応大名誉教授の伊香賀俊治氏(前日本建築学会副会長)は、「室温が2度温かい住まいでは、健康寿命が3年延びる。ひと部屋断熱は室内熱中症リスクも軽減する」との知見を示し、共に活動を支持している。

 「ひと部屋断熱」は、一般社団法人健康・省エネ住宅を推進する国民会議が中心となり行政、医療、建築と連携し推進している。超党派の議員連盟も「命を守るひと部屋断熱改修の推進」決議を5月に採択し、活動を後押しする。

 WHOが勧告する〝室温18度以上〟に維持できる部屋の標準的な改修コストを約80万~100万円程度と見積もり、行政8割負担(国4割、自治体4割)、自己2割負担とするスキームを提案。令和5年国交省予算では「住宅・建築物省エネ改修推進事業(社会資本整備総合交付金)で、達成できる省エネ性能に応じて設計費を含む省エネ改修費用に対するパッケージ補助が設けられており、国民会議ではこれを足掛かりに関係3省や自治体等との連携を強めている。

 地元自治体が補助金交付を決めた事例も出始めた。今年、独自の補助金交付を決めた北海道礼文町が同国民会議及び日本住宅リフォーム産業協会と包括連携協定を結び、全国に先駆け「ひと部屋断熱」計画が実を結んだ。全国の自治体にも広がりを見せている。

 住環境が健康に重大な影響を及ぼす知見が多く得られてきたことで、高齢者政策でも医療・介護福祉と住宅・住生活の分野の溝も徐々に埋まりつつある。国民会議理事長の上原裕之氏は歯科医師で、シックハウス問題をきっかけに健康住宅に関わる提言、活動に取り組んできた。「ひと部屋断熱」が医療分野から提案されたことの意義は大きい。住宅・不動産業界もこの活動を広く業界に周知すると同時に、住宅弱者の住環境を改善するこの活動の輪を広げていくべきだ。