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酒場遺産 ▶54 東京八重洲 ふくべ 東京を代表する王道の酒場

 燻し銀の名酒場。人気のカウンター席はすぐに一杯になってしまうので、奥の席で静か飲むことが多い。1939(昭和14)年創業、戦争で焼け現在の場所に落ち着き、以来ずっと同じ場所・同じ建物で営業。2年前、「さすがに老朽化していた」と建て替えたが、内装は昔のままだ。内装完全保存は大阪の「明治屋」同様に見事だ。この酒場固有の美意識は内装・カウンター・家具・食器・酒器・酒と食の選択まで一貫している。暖簾をくぐると左側はカウンター席で、美しい燗銅壺が置かれ、壁に一升瓶がズラリと並ぶ。以前と変わったのは右側のスペースで、少し狭くなりテーブル席がカウンターになった。壁には飴色になった地酒名を書いた木札が目立つ。全てが長い時に磨かれた燻し銀の美しさである。カウンターに立つ北島正也氏は、以前別の仕事をしていたというが、今は3代目店主を引き継いでいるという。

 壁に下がった木札の酒は厳選された41種類、以前から変わらないという。菊正宗(兵庫)、剣菱(兵庫)、櫻正宗(兵庫)、白鷹(兵庫)、玉乃光(京都)、賀茂泉(広島)、男山(北海道)、桃川(青森)、高清水(秋田)、一ノ蔵(宮城)、初孫(山形)、栄川(福島)、朝日山(新潟)、銀盤(富山)、菊姫(石川)、真澄(長野)、群馬泉(群馬)、澤乃井(東京)、開運(静岡)。1合1100円前後、王道の酒ばかりだ。中でも菊正宗樽酒、カウンター内の大樽から継がれる樽酒が一番人気。食事も逸品ぞろい。鰺干物750円、くさや850円、たらこ850円、鮭900円、おでん830円、生揚げ680円、玉子焼き600円、たたみ鰯550円、海鮮納豆750円、わさび500円、冷ややっこ500円、刺身3点盛り1300円、塩辛500円、塩らっきょう450円、はんぺん焼き600円、玉子かけごはん450円、マグロ漬け丼900円、いか刺し丼900円、いか和えとろろ丼900円など。酒場の完成度に、暖簾をくぐると背筋の伸びる思いがする。(似内志朗)