新築マンションの年収倍率が全国平均で初めて10倍を超えた。価格、利益に見合った供給戦略が続けば、庶民にとっては高嶺の花よりもはるか遠い存在となる。生活を切り詰めて所有するよりも、中古や賃貸住宅という選択肢がより現実的となりそうだ。
▼住宅改良開発公社は今秋、英国の「ソーシャル・エンタープライズ」をテーマにシンポジウムを開いた。80年代に欧米で誕生した企業体を指し、所得減や高齢化、孤立といった様々な課題に対し、民間賃貸住宅を基盤とした社会的取り組みを実践する。ビジネスのオーナーや株主の利益を目的とした運営ではなく、ビジネスによって得られた利益を、まちづくりやコミュニティづくりへ再投資する。居住者のみならず、働く人や地域のコミュニティ・経済など、様々な関係者の幸福感を高め、居場所づくりに寄与している点が特徴だ。
▼同シンポジウムでは、日本の事例としてエンジョイワークスの「参加者の共感に基づく街づくり」が紹介された。聴講者からは「事業継続のキャッシュポイント」に関心が寄せられたが、「稼げる事業との両輪展開」「ソーシャルキャピタルを先行獲得する事業計画」などのヒントを始め、社会課題解決に意欲的な学生や出資者が増えている現状も共有された。ソーシャルな視点は、関わる人のウェルビーイングに寄与し、持続的な活動を支える。不動産業界にうってつけの視点だ。