西荻窪(通称「西荻」)は中央線沿線の個性的な街の中では、比較的小さくヒューマンスケールだ。周辺には品の良い住宅街が広がるが、駅前の狭い通りには小さく魅力的な酒場が集積し、日の高いうちから酒飲みが集まる。バラックのような立飲み屋からセンス良い小洒落たバーまであり、その振れ幅の大きさが、この街の居心地の良さをつくっている。
「酒蔵千鳥」はJR西荻窪駅改札を出て右側すぐの目抜き小路「サカエ通り」にある昭和30(1955)年創業の老舗酒場だ。店の中央にドンと構えるコの字カウンターは分厚い飴色、壁に品書きの短冊が並び、カウンターの中にはおでんの鍋が湯気を立てている。酒も食も品ぞろえ豊富だ。カウンターには男の一人客が多く18時を過ぎれば満席になる。中で客を仕切る女性もいい感じだ。壁も天井も木でつくられたコンパクトな空間は居心地がいい。
クラシックラガー大瓶780円、ハートランド、サッポロラガー中瓶680円、生ビールは一番搾り中530円・小380円、ハイボール480円。焼酎はグラスで500円、ボトルは3000円ほど。酒は三千盛、甲子、9(ナイン)、伝心、八海山、剣菱、白鶴など一合700~800円、日高見、梵艶などのグラスも手頃な価格だ。お通しは旬の食材、鰺干物、たら干し、山かけ、鮪ぬた、鮪納豆、真鰺刺し、白烏賊刺し、こはだなど700円前後、ポテサラ、板わさ、冷奴、もろきゅうなど小皿は300~500円。この店名物のおでんは、だいこん・厚揚げ・がんも・焼き豆腐・ロールキャベツ・すじ・魚河岸揚げ・玉子・こんにゃく・しらたき・じゃがいも・ごまんこん天・ちくわぶ・ネギベーコン天・昆布・はんぺん・つみれ・竹輪など200~240円。とても美味しい。神田辺りと比べると汁は濃すぎもせず、この街に似て穏やかだ。(似内志朗)