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酒場遺産 ▶72 札幌 第三モッキリセンター 店先の角打ちが始まり創業98年

 札幌テレビ塔を超えて創成川を渡ると、通りの街灯もまばらとなる。そんな場所に、「正統九十年第三モッキリセンター」のひときわ明るい看板が光る。暖簾をくぐり引き戸を開けると、30人ほどが座れるコの字カウンターが迎えてくれる。酒も食も安くて美味しい、日常遣いの「いい酒場」なのだ。20年ほど前になるが、筆者は勤め人時代に1年間札幌に赴任していたことがある。その頃この店にはよく来ていた。札幌は新しい街なので、新しく居心地の良い酒場は無数にあるが、時を経た「酒場遺産」は少ない。こうした中で「第三モッキリセンター」は1926年(昭和元年)創業というから、2024年で創業98年という例外的に長い歴史を持つ酒場だ。「モッキリ」とは、酒を升で飲む「盛り切り」という話もあるし、「角打ち」と同じ意味とも言われる。 小樽市山田町の酒屋「加藤商店」の店先の角打ちが本店の始まりで、1950年に今の場所に近い旅籠「かめや」の一画を借り、その後、今の場所へ移転したという。創業1代目は加藤一実氏、2年前に亡くなった加藤一夫氏は2代目、今の店主加藤文規さんは3代目だ。壁に掛かるアクリル板のメニュー「居酒屋の王様 正統90年第三モッキリセンター」には清酒、焼酎、ウイスキー、ビール、酎ハイ、ワインなどが、こだわりなく書かれて、どれも安価だ。料理はおでん、玉子焼き、串カツ、とんとん鍋、鮪刺身、鯖味噌煮、以下刺身、しめ鯖、男爵コロッケ、身欠きにしん、湯豆腐、鶏串など、多くが500円以下と安い。日本酒は明治5年創業の日本清酒「千歳鶴なまら純米辛口」をいただくが、北海道人の爽やかな気質に通じるさっぱりとした味わいだった。カウンターで飲んでいると、目の前でジーンズ姿の女将が、手際よくぱっぱと注文を裁いている。気取らず明るくフラットなカルチャーが北海道だ。一世紀も経とうとしているこの老舗酒場も、歴史の重さを感じさせない、どこか底抜けの明るさを持っている。(似内志朗)