業界に新たな仲間が増える。人手不足時代に加わった新たな芽を育て、変化に即した花を咲かせられるか。企業の正念場だ。ただ、企業風土に慣れ、活躍のステップを踏むのは少し先だろう。むしろ、既存社員の成長投資に意識を高めるときだ。現有戦力の最大活用は企業の大小を問わず、中長期の成長に関わる共通課題だからだ。
不動産流通推進センターが2月に公表した不動産業のリスキリング実態調査によると、全従業員に対する研修実施率は3割にとどまった。中堅以上は約2割と更に低水準だ。より精度な実態把握や、従業員研修以外の学びへの評価といった課題はあるだろうが、スキルアップの意欲や環境整備の差が大きい業界が、消費者に歓迎されるとも言いがたい。業界を挙げた取り組みの進展が不可避だ。
中でも仲介業は独立開業を含めて、流動性の高い分野だ。個人が意欲にあふれた挑戦が可能とも言える。独立志向派の足止めが賢明とは思えないが、これまで貢献してきた中堅社員が、組織とのミスマッチを理由に縁切りするのはあまりにも惜しい。その働きは企業成長の核であり、若手社員の未来図ともなる。新卒社員が10年先も同一企業に勤める保証はない。より流動的にキャリア転換する可能性も考慮し、現有戦力のやる気を高める仕組みづくりに本気を出すべきだ。多様な働き方を認め、業務を通じて描けるキャリアの選択肢を示すことは、報酬一辺倒ではない企業価値の創出である。
例えばキャリアアップに必要な社内基準や条件を明確化する方法だ。賃貸仲介・管理を軸に多店舗展開するA社は、出店戦略の肝に人材の採用と質の強化を挙げる。中堅層のやりがいとキャリアパス形成の重要性を認め、グループ内の他部門でのステップアップの道を探る。B社は社長や役員を対象とした360度評価制度を採用する。経営層にとって耳の痛い指摘もあるようだが、建設的な発想は案外現場に転がっている。公平で納得感が増すため、企業のビジョン共有や社員の当事者意識向上といった効用が得られるという。賃貸管理のC社社長は、「初めからできる社員は入社しない。育たないのは経営者の責任」と言い切る。「社員が辞めない仕組みづくりが安定経営と成長を支える」とも言い、自らが同行するオーナー訪問でトップセールスの姿を示すと共に、普段オーナーと接する現場社員の評価を共有。成約率向上と関係強化も図るなど一挙三得の成果を得る。社員に事業のだいご味も体験させる実践的なリスキリングではないか。
キャリア形成の環境整備を怠れば、骨太の組織は構築できず、当てのない採用活動が続く。現有戦力の働き方や学ぶ意欲に対する課題を見極め、都度ブラッシュアップする。人の住まいやライフスタイルに寄り添い、創造性を発揮する業界であるなら、新たな価値基準の提示が不可能なはずはない。